春庭Annex カフェらパンセソバージュ~~~~~~~~~春庭の日常茶飯事典

今日のいろいろ
ことばのYa!ちまた
ことばの知恵の輪
春庭ブックスタンド
春庭@アート散歩

ぽかぽか春庭「セザンヌのりんご-福田美蘭展in東京都美術館」

2013-10-09 00:00:01 | エッセイ、コラム
2013/10/09
ぽかぽか春庭@アート散歩>アート散歩2013年9月(3)セザンヌのりんご-福田美蘭展in東京都美術館

 福田美蘭の「有名作品の模写に付け加える作品」のうち、オマージュになっていると感じたのは、セザンヌの「りんごとオレンジ」の模写に、美蘭がコメントを付け加えた絵です。
 美大受験生が通う美術予備校では、生徒が書き上げた作品に指導教官があれこれコメントを加える。いかにも美術予備校の教師が生徒の絵に加えそうなコメントで「りんごかオレンジかわかりません」とか「不安定なモチーフの組み方です」などとコメントを書き入れ、総評としては「視点がバラバラです」これにも大笑い。

 誰もが「大家」として文句一つ言わずにありがたがって見てきて、日本の美術館なんぞがセザンヌを1点でも手に入れれば狂喜乱舞しそうなのに、福田美蘭は、もしこれと同じレベルで画学生が書いたなら、凡庸な絵画教師ならこのような凡庸なコメントによって評価するであろうという批評を書き加えています。セザンヌへの総合評点は「B+」でした。

セザンヌ「りんごとオレンジ」

福田美蘭「リンゴとオレンジ」「美術教師」による総合評価は、B+
 

 セザンヌをありがたがってみている人々へも、生徒の絵にエラソーな批評を加える絵画教師にも痛烈な1点になっています。
 りんごかオレンジかわからないような果物の描き方で、視線がばらばらなこの絵が、なぜ傑作なのかもわかる。すごいな、福田美蘭。

 「現実への眼差し」コーナーには、社会事件となった出来事にコミットした絵が並んでいました。
 噴火後の富士山やイエス・キリストに説教されてるブッシュというような想像の光景を描いています。

 地下と1階吹き抜けのギャラリーAのテーマは「今日を生きる眼差し」。
 母の死をみつめた、花の絵(美蘭展のポスターに使われています。)
 祖父、林美雄(絵本作家)の死に際し、祖父が描いた童話の動物や金太郎たちがあつまって祖父を見守る涅槃図。震災後の被災者や海の生き物に対する思いが画材となっています。2011~2013年に制作された新作が並べられていました。

 この福田美蘭展に、皇后行啓がありました。作家自身が絵の説明をしたということです。一般の観覧者を、通常の閉館時間より30分早く退室させ、行啓観覧時間は、17:30~17:50の20分ほどでしたから、全部は見ず、ギャラリーA「今を生きるまなざし」と、両陛下がサイパンのバンザイクリフで黙祷なさっている後ろ姿を描いた絵の展示がある「現実への眼差し」のコーナーだけだったかもしれません。もし、「日本への眼差し」の部屋も見たのなら、福田美蘭がどのようにご説明申し上げたのか、知りたい。

 「日本への眼差し」の中の、「高き屋にのぼりてみれば」に描かれた仁徳天皇と皇后の姿。「高き屋」から見下ろして民のかまどに煙が立っているようすを満足げに眺めている絵なのです。そして、画面中央には「強烈な爆弾」が炸裂している。
 のんびりと「高き屋にのぼりてみれば煙けぶり立つ民のかまどはにぎはひにけり」なんて詠んでいる場合じゃないのに、気高き雲の上つ人は、かまどのけぶりを寿ぎ、爆弾炸裂には目もくれない。「雲の上つ人」の慈愛とはこういうものなのだ、と描いているのを、どのように解説するのだろうか。

 私の世代の者なら、この仁徳天皇の「民のかまどのけぶり」を見て喜び、爆弾炸裂にはおかまいなしの姿を見て、すぐに連想されることばがあります。
 広島に「新型爆弾」が炸裂した時の感想を問われて、かの上つ人は「やむをえなかった」と、ひとこと答えたというのが、1975年の「記者クラブインタビュー」に残されているのです。
http://www.youtube.com/watch?v=NQhVOTS0j7A

 皇后さまは、「夏-震災後のアサリ」に関心を示されたとのこと。


ギャラリーA観覧中の皇后さま

 皇后さまの背景の絵はこちら。この部屋の絵は撮影可なので、撮りました。
 作家の解説によると「芸大の門の前にたつ美蘭を父福田繁雄が撮影した写真パネルに、芸大卒業記念に美術室から失敬してきた椅子と、校内にあったのを自宅庭に移植したアカンサス」と、伝統のアカンサス模様を描き込んだ絵。

「アカンサス」

 ルーブル展示も美蘭展もよかったし、私の肩を叩いた男性のことも、この手の老人は、人のミスをみつけて非難することに生きがいを感じている気の毒な方だとおもうことにして、気分を直しました。こういう老人にはなりなくないなと、今日も反面教師によって老後を生きる指針を得ました。
 秋の美術館、絵を楽しみ、老後の教訓を得て、上野精養軒で食べた「ヘルシーどんぶり」もおいしかったし、まあ、よい一日でした。

<おわり> 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする