2013/10/29
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>十三里半日記10月(4)劇団昴『本当のことを言ってください』
10月27日、劇団昴『本当のことを言ってください』を赤坂レッドシアターで見ました。北村総一朗が病気のため公判してしまったのが残念ですが、千秋楽公演、満席でした。
視覚障害者の友人アコさんとは、図書館の朗読ボランティアとして出会い、以来「いっしょに演劇を楽しむ仲間」としてお付き合いしてもらい四半世紀になります。今回も「はじめて行く劇場で、ひとりでは行けないので、いっしょに行ってね」というお誘いを受けて、ガイドヘルプ兼いっしょにお芝居を楽しむ友だちとして出かけました。
実家から特急で上京するアコさんを上野で出迎え、上野駅構内でスパゲティランチ。銀座線で赤坂見附へ。ここで大失敗、ネットから取り込んで印刷した地図を家においてきてしましました。今時のケータイなら地図をすぐに出せるのに、わたしのガラケーではそんな芸当はできません。
歩道の脇に立ててある地域案内の地図を見ながら、「ホテルグランベルの中にあるレッドシアター」とアコさんとあれこれ言っていたら、ケータイ見ながら歩いていた青年が「僕もこれからレッドシアター行くので、ごいっしょしましょう」と声をかけてくれました。親切な方のおかげで、迷わず目的地までいけました。ありがとうツチヤさん。
劇場は200席ほど。前から2列目の席。役者の声はよく聞こえる場所でしたが、耳で演劇を楽しむアコさんには「音がひらべったく聞こえて、奥行はない舞台ね」と聞こえたそうです。
昴の『本当のことを言ってください』は、畑澤聖悟の脚本。北海道苫小牧市に本社があったミートホープ社の食肉偽装事件をモデルにしたストーリーです。牛ひき肉のミートボールを安いくず肉や廃棄物となった内蔵などを混ぜ、安定剤、増粘剤、着色料などの添加物で見た目ととのえ、「安くてうまいハンバーグ、ミートボール」として売り出しているが、工場で働くパートさんたちは「給食にハンバーグやミートボールが出てきたら、ぜったいに食べちゃだめ」と自分の子供には教えています。
ある時、「くず肉ハンバーグ」の偽装について告発文が投書され、新聞記事になったことから、創業者一家、営業部長、工場長などを巻き込んだ事件に発展していきます。記者会見開かれ、嘘の弁明を続けていくのですが、つぎつぎと新たな嘘があばかれます。
創業者は大陸からの引揚者で、我が子に腹いっぱい食べさせたいという思いで食肉会社を設立したのですが、娘とその婿に会社をゆずったあとは、娘夫婦によって経営から遠ざけられていました。孫夫婦は、チケットひとり8万円のワールドカップ一等席を買って一家で見に行ったり、高級車を買う贅沢ができるのも、安いハンバーグを売りまくっているおかげと割り切っています。
いつの間にやら、食肉工場は、従業員たちが「我が子には絶対に食べさせたくないもの」を作る場所になっていました。
つい最近も、大手ホテルのレストランで、メニューの偽装ニュースが報道されました。安い食材を使っているのに、メニューにはブランド食材の名を騙り高級食材を使ったようにされていたという事件。「どうせ客には高級食材との味の差なんてわからない」という作り手の消費者を見くびった態度に憤懣やるかたない人もいるでしょう。
私は偽装された高級食材なんてものに騙されたことはありません。舌が確かだから?いえいえ、高級品とされるものを買ったことないから。最初から「とびっこ」として買ってきたから、「レッドキャビア」と称されていたとびっこを高い値段で食べさせられたことがない。最初から安い肉を食べてきたから、中級品を「ブランド牛肉」と偽ったものを食べないですんでこれたってこと。
1968年にカネミ油症事件が起き、水俣では水銀入りの魚を食べた人々の水俣病が発生。安全なものを食べたいという願いは、人にとって当然と思うけれど、食品偽装は未だに続いています。
「返品されてきた不良品のパック詰め肉は、ひき肉にしてハンバーグに再利用すれば、コストを下げられ安いハンバーグを作れる。会社は儲かり、消費者も安いものが食べられて喜ぶ」と、劇中の経営者夫婦は言っていました。
雇われる側の弱い立場のパートさんたちは、外部には公開できないひどい状態の工場で働きながら、その状態を語ることができないでいました。職場を失うことになったら、家族が食えなくなるから。
日本全国、上から下まで、「バレなきゃOK」「どうせ馬鹿な消費者ばかな国民には本当のことなんかわかりゃしない」という不正が満ち満ちています。数万ベクレルもの放射能をあふれさせているのに、「完全にコントロールされている」とか。
「本当のことを言う」のは人としての生き方の基本だと思うのですが、嘘がまかり通り、秘密をばらされるのを恐れる政府が、勝手な法案を通す。
このまま本当のことを言わない社会が形成されていっていいのでしょうか。嘘で塗り固めた社会で景気さえよくなれば、それで皆満足できるのですか。
貧乏にあえいで暮らしてきた我が家。確かに、お金でなければ買えないものがたくさんあります。でもお金では買えないものもたくさんある。自分の生活、自分の人生を誇りをもって人に語ることができる、どんなに貧乏な暮らしをしていても、人に嘘をつかない暮らしができることはありがたいことです。
食肉工場のパートさんたちは、自分の作ったハンバーグを我が子には食べさせたくないと言っていました。私は自分の作った文章については誇りをもって「嘘偽りない文だから、読んでね」と、娘息子に言っているのですが、「そんなまずいもん、読めるか」と、これまた正直な感想が帰ってきます。う~ん、たしかにうまくはない。貧乏でも偽装のない生活でよかったと思うしかない。嘘偽りのない暮らしは「おいしい生活」には遠い。
お芝居後のティータイム。アコさんの話を聞くのも、ごいっしょする楽しみのひとつ。今回は、「小さいころから楽しんできたアニメの原作を、はじめて点訳本で読めた」という話を聞きました。アニメのムーミンが大好きだったけれど、一般書籍に比べて、児童書はなかなか点訳が出ない。絵本や児童書は、語りきかせの対象にはなっても、点訳の対象になることが少ないのだそうです。
ムーミン、日本でキャラ設定などが大幅に変更された脚本と原作は、いろいろ違うところがあるので、とても興味深く読んだ、ということでした。私もむかし読んだ原作をい出しました。アニメのスナフキンと原作のキャラクターの違いなどに驚いたことなど、アコさんに話しました。
すべての視覚障害者が「本を読む楽しみ、芝居を見る楽しみ」を味わえるようにと、活動を続けているアコさんの努力を見て、私も元気をわけてもらいました。ガイドヘルプをさせてもらって、こちらが助けてもらっているんだなあと感じます。
<つづく>
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>十三里半日記10月(4)劇団昴『本当のことを言ってください』
10月27日、劇団昴『本当のことを言ってください』を赤坂レッドシアターで見ました。北村総一朗が病気のため公判してしまったのが残念ですが、千秋楽公演、満席でした。
視覚障害者の友人アコさんとは、図書館の朗読ボランティアとして出会い、以来「いっしょに演劇を楽しむ仲間」としてお付き合いしてもらい四半世紀になります。今回も「はじめて行く劇場で、ひとりでは行けないので、いっしょに行ってね」というお誘いを受けて、ガイドヘルプ兼いっしょにお芝居を楽しむ友だちとして出かけました。
実家から特急で上京するアコさんを上野で出迎え、上野駅構内でスパゲティランチ。銀座線で赤坂見附へ。ここで大失敗、ネットから取り込んで印刷した地図を家においてきてしましました。今時のケータイなら地図をすぐに出せるのに、わたしのガラケーではそんな芸当はできません。
歩道の脇に立ててある地域案内の地図を見ながら、「ホテルグランベルの中にあるレッドシアター」とアコさんとあれこれ言っていたら、ケータイ見ながら歩いていた青年が「僕もこれからレッドシアター行くので、ごいっしょしましょう」と声をかけてくれました。親切な方のおかげで、迷わず目的地までいけました。ありがとうツチヤさん。
劇場は200席ほど。前から2列目の席。役者の声はよく聞こえる場所でしたが、耳で演劇を楽しむアコさんには「音がひらべったく聞こえて、奥行はない舞台ね」と聞こえたそうです。
昴の『本当のことを言ってください』は、畑澤聖悟の脚本。北海道苫小牧市に本社があったミートホープ社の食肉偽装事件をモデルにしたストーリーです。牛ひき肉のミートボールを安いくず肉や廃棄物となった内蔵などを混ぜ、安定剤、増粘剤、着色料などの添加物で見た目ととのえ、「安くてうまいハンバーグ、ミートボール」として売り出しているが、工場で働くパートさんたちは「給食にハンバーグやミートボールが出てきたら、ぜったいに食べちゃだめ」と自分の子供には教えています。
ある時、「くず肉ハンバーグ」の偽装について告発文が投書され、新聞記事になったことから、創業者一家、営業部長、工場長などを巻き込んだ事件に発展していきます。記者会見開かれ、嘘の弁明を続けていくのですが、つぎつぎと新たな嘘があばかれます。
創業者は大陸からの引揚者で、我が子に腹いっぱい食べさせたいという思いで食肉会社を設立したのですが、娘とその婿に会社をゆずったあとは、娘夫婦によって経営から遠ざけられていました。孫夫婦は、チケットひとり8万円のワールドカップ一等席を買って一家で見に行ったり、高級車を買う贅沢ができるのも、安いハンバーグを売りまくっているおかげと割り切っています。
いつの間にやら、食肉工場は、従業員たちが「我が子には絶対に食べさせたくないもの」を作る場所になっていました。
つい最近も、大手ホテルのレストランで、メニューの偽装ニュースが報道されました。安い食材を使っているのに、メニューにはブランド食材の名を騙り高級食材を使ったようにされていたという事件。「どうせ客には高級食材との味の差なんてわからない」という作り手の消費者を見くびった態度に憤懣やるかたない人もいるでしょう。
私は偽装された高級食材なんてものに騙されたことはありません。舌が確かだから?いえいえ、高級品とされるものを買ったことないから。最初から「とびっこ」として買ってきたから、「レッドキャビア」と称されていたとびっこを高い値段で食べさせられたことがない。最初から安い肉を食べてきたから、中級品を「ブランド牛肉」と偽ったものを食べないですんでこれたってこと。
1968年にカネミ油症事件が起き、水俣では水銀入りの魚を食べた人々の水俣病が発生。安全なものを食べたいという願いは、人にとって当然と思うけれど、食品偽装は未だに続いています。
「返品されてきた不良品のパック詰め肉は、ひき肉にしてハンバーグに再利用すれば、コストを下げられ安いハンバーグを作れる。会社は儲かり、消費者も安いものが食べられて喜ぶ」と、劇中の経営者夫婦は言っていました。
雇われる側の弱い立場のパートさんたちは、外部には公開できないひどい状態の工場で働きながら、その状態を語ることができないでいました。職場を失うことになったら、家族が食えなくなるから。
日本全国、上から下まで、「バレなきゃOK」「どうせ馬鹿な消費者ばかな国民には本当のことなんかわかりゃしない」という不正が満ち満ちています。数万ベクレルもの放射能をあふれさせているのに、「完全にコントロールされている」とか。
「本当のことを言う」のは人としての生き方の基本だと思うのですが、嘘がまかり通り、秘密をばらされるのを恐れる政府が、勝手な法案を通す。
このまま本当のことを言わない社会が形成されていっていいのでしょうか。嘘で塗り固めた社会で景気さえよくなれば、それで皆満足できるのですか。
貧乏にあえいで暮らしてきた我が家。確かに、お金でなければ買えないものがたくさんあります。でもお金では買えないものもたくさんある。自分の生活、自分の人生を誇りをもって人に語ることができる、どんなに貧乏な暮らしをしていても、人に嘘をつかない暮らしができることはありがたいことです。
食肉工場のパートさんたちは、自分の作ったハンバーグを我が子には食べさせたくないと言っていました。私は自分の作った文章については誇りをもって「嘘偽りない文だから、読んでね」と、娘息子に言っているのですが、「そんなまずいもん、読めるか」と、これまた正直な感想が帰ってきます。う~ん、たしかにうまくはない。貧乏でも偽装のない生活でよかったと思うしかない。嘘偽りのない暮らしは「おいしい生活」には遠い。
お芝居後のティータイム。アコさんの話を聞くのも、ごいっしょする楽しみのひとつ。今回は、「小さいころから楽しんできたアニメの原作を、はじめて点訳本で読めた」という話を聞きました。アニメのムーミンが大好きだったけれど、一般書籍に比べて、児童書はなかなか点訳が出ない。絵本や児童書は、語りきかせの対象にはなっても、点訳の対象になることが少ないのだそうです。
ムーミン、日本でキャラ設定などが大幅に変更された脚本と原作は、いろいろ違うところがあるので、とても興味深く読んだ、ということでした。私もむかし読んだ原作をい出しました。アニメのスナフキンと原作のキャラクターの違いなどに驚いたことなど、アコさんに話しました。
すべての視覚障害者が「本を読む楽しみ、芝居を見る楽しみ」を味わえるようにと、活動を続けているアコさんの努力を見て、私も元気をわけてもらいました。ガイドヘルプをさせてもらって、こちらが助けてもらっているんだなあと感じます。
<つづく>