2013/11/16
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>十三里半日記11月(5)映画『きっとうまくいく』
11月03日、バレエフェスティバルが終わってから、飯田橋で途中下車し、映画を見て帰りました。インド映画『きっとうまくいく 3idot(3ばかトリオ)」』
インド映画はストーリーの中に突然歌や踊りが入り込み、3時間を越えて延々歌い踊るというつくり方がヒットの条件です。インドのボリウッドは、今や映画製作本数ではハリウッドを抑えて、堂々の世界一の映画大国。
『きっとうまくいく』は、2009年の公開以来、インドでの大ヒットはもちろん、全世界での興行収入75億円という大ウケの作品になりました。
ストーリーは、現在のインドとその10年前の3ばかトリオの学生時代の回顧を入れ混ぜながらすすみます。
10年前インド最難関と言われる大学に入学し、将来を約束されたエリートの卵として勉学することになった3人。同室となり、4年間を共にすごします。
「自由に生きる」方針の最優秀学生ランチョーは、「競争社会を勝ち抜け」と主張する学長と対立してばかりいます。しかし、ランチョーの実家が大金持ちだと知っている学長は、他の学生には簡単に「君はうちの大学の方針に反するから退学せよ」と言ってしまうのに、ランチョーには最後の最後まで退学通牒をつきつけるのをがまんしています。好き勝手に授業を受け、好き勝手にサボるランチョー、定期試験の成績はいつもトップです。
ファルハーンは、本当はエンジニアではなくて動物写真家になりたいのに、息子に期待をかけている父親には言い出せないでいます。中産階級上層の父親にとって、一家の対面を保つことは重大事で、ファルハーンは何よりも一家の名誉のために、動物写真家などという浮草稼業ではなく、堅実なエンジニアを目指さなければならないのです。嫌いな理系、成績はびりから2番。
ラージューは、貧しい家庭の出身。父は、寝たきりの元郵便局長、母は元教師。持参金が払えないまま婚期が遅れた姉もいるなか、両親のために大学をなんとしても卒業しよい就職先を得なければならぬと頑張っています。しかし、貧しい生活の中、成績はいつもビリ。
3バカトリオと対立するのはもうひとりの同級生チャトゥル。いつもすかしっ屁をするので「サイレンサー(消音銃)」というあだ名で呼ばれています。学長にごまをすり、必死の丸暗記をしてガリ勉を続けているのに、いつも一番のランチョーには勝てず、「将来は出世してランチョーを嘲笑ってやる」というのが願いです。
学長の娘は、立身出世主義でなんでもお金に換算する男と結婚させられそうになっていますが、ランチョーに惚れ込みます。
10年後、ガリ勉ごますりのチャトゥルは大手会社の副社長にまで出世し得意満面です。卒業から10年たったら、誰が一番出世したか賭けようと、一方的な賭けをしたことを思いだし、今こそ「自分の勝利」と宣言しようと張り切っています。
世界的な発明家の科学者との契約が成功すれば、さらなる出世も夢じゃない。しかし、この科学者、なかなか契約にOKを出さないのです。
卒業後それぞれの進路に進んだファルハーンとラージューにとって、ランチョーの消息がわからいないことが気がかりの種でした。卒業以来ぱったりと消息をたってしまったランチョーを探し続けてきましたが、手がかりがなく、チャトゥルの「田舎のほうにいるらしい」という情報をたよりにいっしょに尋ね人の旅に出ます。
旅の途中、大金持ちの息子ということだったランチョーの実像がしだいに明らかになっていきます。はたして、ランチョーという学生は実在したのか幻だったのか。
とにかく、3バカトリオの学生生活がおかしくって、笑っている見ているうちに、インドの深刻な学歴競争のストレスもわかります。卒業見込みなしと学長に告げられて自殺する学生もいるくらい、インドでは「一流大学卒業」へ期待が大きく、家族親族村一同から「よい大学を出てよい会社に入り、家族親族を養ってくれ」というプレッシャーが押し寄せます。
「貧しい子供にも教育を」という理想は理想として、まずは我が身、という格差社会。得られる職業がカーストによって決められているインドですが、ITやエンジニアはカーストには決まりのない新しい職業です。貧しい家庭の子も能力次第で這い上がるチャンスを得られるし、上位カーストの出身者にとっては、一流大学出身でなければ、人々からの尊敬も失ってしまうために、金で買っても卒業証書がほしい。
姿を隠してしまったランチョーは見つかるのか、最も幸福な生活を手に入れたのは、果たして誰だったのか。学ぶのはなんのためだったのか。
タイトルの「きっとうまくいく」はランチョーが自分の心に言い聞かせているキーワード。「Aal Izz Well(アール・イーズ・ヴェール)」は、植民地時代の夜警が夜回りの間、発していたという言葉で、おそらくAll is well.がなまったものでしょう。
3バカトリオの友情物語、成長物語であるだけでなく、インド社会の現在の問題点、身分制度と経済格差、学びたくても学べない階層の存在、競争社会などが描かれていて、その解決への希望も描かれているところが、インドほかの世界中でヒットした要素だと思います。
インターネット普及のおかげで、「だれでも無料で学びた時に学ぶ」というサイトが増えつつあります。ランチョーのように、卒業証書のためでなく、自分自身の自由のために学ぶ若者が増えていくことを願っています。
<つづく>
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>十三里半日記11月(5)映画『きっとうまくいく』
11月03日、バレエフェスティバルが終わってから、飯田橋で途中下車し、映画を見て帰りました。インド映画『きっとうまくいく 3idot(3ばかトリオ)」』
インド映画はストーリーの中に突然歌や踊りが入り込み、3時間を越えて延々歌い踊るというつくり方がヒットの条件です。インドのボリウッドは、今や映画製作本数ではハリウッドを抑えて、堂々の世界一の映画大国。
『きっとうまくいく』は、2009年の公開以来、インドでの大ヒットはもちろん、全世界での興行収入75億円という大ウケの作品になりました。
ストーリーは、現在のインドとその10年前の3ばかトリオの学生時代の回顧を入れ混ぜながらすすみます。
10年前インド最難関と言われる大学に入学し、将来を約束されたエリートの卵として勉学することになった3人。同室となり、4年間を共にすごします。
「自由に生きる」方針の最優秀学生ランチョーは、「競争社会を勝ち抜け」と主張する学長と対立してばかりいます。しかし、ランチョーの実家が大金持ちだと知っている学長は、他の学生には簡単に「君はうちの大学の方針に反するから退学せよ」と言ってしまうのに、ランチョーには最後の最後まで退学通牒をつきつけるのをがまんしています。好き勝手に授業を受け、好き勝手にサボるランチョー、定期試験の成績はいつもトップです。
ファルハーンは、本当はエンジニアではなくて動物写真家になりたいのに、息子に期待をかけている父親には言い出せないでいます。中産階級上層の父親にとって、一家の対面を保つことは重大事で、ファルハーンは何よりも一家の名誉のために、動物写真家などという浮草稼業ではなく、堅実なエンジニアを目指さなければならないのです。嫌いな理系、成績はびりから2番。
ラージューは、貧しい家庭の出身。父は、寝たきりの元郵便局長、母は元教師。持参金が払えないまま婚期が遅れた姉もいるなか、両親のために大学をなんとしても卒業しよい就職先を得なければならぬと頑張っています。しかし、貧しい生活の中、成績はいつもビリ。
3バカトリオと対立するのはもうひとりの同級生チャトゥル。いつもすかしっ屁をするので「サイレンサー(消音銃)」というあだ名で呼ばれています。学長にごまをすり、必死の丸暗記をしてガリ勉を続けているのに、いつも一番のランチョーには勝てず、「将来は出世してランチョーを嘲笑ってやる」というのが願いです。
学長の娘は、立身出世主義でなんでもお金に換算する男と結婚させられそうになっていますが、ランチョーに惚れ込みます。
10年後、ガリ勉ごますりのチャトゥルは大手会社の副社長にまで出世し得意満面です。卒業から10年たったら、誰が一番出世したか賭けようと、一方的な賭けをしたことを思いだし、今こそ「自分の勝利」と宣言しようと張り切っています。
世界的な発明家の科学者との契約が成功すれば、さらなる出世も夢じゃない。しかし、この科学者、なかなか契約にOKを出さないのです。
卒業後それぞれの進路に進んだファルハーンとラージューにとって、ランチョーの消息がわからいないことが気がかりの種でした。卒業以来ぱったりと消息をたってしまったランチョーを探し続けてきましたが、手がかりがなく、チャトゥルの「田舎のほうにいるらしい」という情報をたよりにいっしょに尋ね人の旅に出ます。
旅の途中、大金持ちの息子ということだったランチョーの実像がしだいに明らかになっていきます。はたして、ランチョーという学生は実在したのか幻だったのか。
とにかく、3バカトリオの学生生活がおかしくって、笑っている見ているうちに、インドの深刻な学歴競争のストレスもわかります。卒業見込みなしと学長に告げられて自殺する学生もいるくらい、インドでは「一流大学卒業」へ期待が大きく、家族親族村一同から「よい大学を出てよい会社に入り、家族親族を養ってくれ」というプレッシャーが押し寄せます。
「貧しい子供にも教育を」という理想は理想として、まずは我が身、という格差社会。得られる職業がカーストによって決められているインドですが、ITやエンジニアはカーストには決まりのない新しい職業です。貧しい家庭の子も能力次第で這い上がるチャンスを得られるし、上位カーストの出身者にとっては、一流大学出身でなければ、人々からの尊敬も失ってしまうために、金で買っても卒業証書がほしい。
姿を隠してしまったランチョーは見つかるのか、最も幸福な生活を手に入れたのは、果たして誰だったのか。学ぶのはなんのためだったのか。
タイトルの「きっとうまくいく」はランチョーが自分の心に言い聞かせているキーワード。「Aal Izz Well(アール・イーズ・ヴェール)」は、植民地時代の夜警が夜回りの間、発していたという言葉で、おそらくAll is well.がなまったものでしょう。
3バカトリオの友情物語、成長物語であるだけでなく、インド社会の現在の問題点、身分制度と経済格差、学びたくても学べない階層の存在、競争社会などが描かれていて、その解決への希望も描かれているところが、インドほかの世界中でヒットした要素だと思います。
インターネット普及のおかげで、「だれでも無料で学びた時に学ぶ」というサイトが増えつつあります。ランチョーのように、卒業証書のためでなく、自分自身の自由のために学ぶ若者が増えていくことを願っています。
<つづく>