20151013
ぽかぽか春庭知恵の輪日記>2003三色七味日記10月(2)2003年の英国版赤鬼
2003年の三色七味日記10月の再録を続けています。
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2003/10/05 日 晴れ1010
ジャパニーズアンドロメダシアター>ノダマップ英国版赤鬼
NHK3チャンネルの放映をビデオにとり、野田秀樹『赤鬼』イギリス公演を見た。英語にして、どうなるのかと思ったが、面白かった。最後に「あの女」が崖から飛び降りたと、とんびが語るとき、戯曲を読んだときミサイルの芝居をみたときと同じように、涙が出た。
ミサイルのような世間に名が出ていない俳優が演じても、イギリスデビュー公演でも、これだけの感銘をうけるということは、やっぱり野田は天才だなあ。教駒在学中に初戯曲を文化祭で上演。「そのときから、自分は天才だと思っていた」と自ら言っている。天才だと思う。
装置は洋服ダンスひとつ。ドアになったり、船になったり、牢屋になったりする。赤鬼役の野田、アカオニの名前が「アンガス」じゃなく、「ヒデキ」だった。戯曲、初演では村人はとんびたちが演じるのを、イギリス版では、村人は別の俳優。どうやって「排斥する側」と「される側」がは同じ人間の心の裏表であることを表現するのかなと、思ったが、衣装の色でしか表現されていない。村人側が赤い衣装、ヒデキが青いパーカー。赤鬼が青い服、赤鬼を排斥する村人が赤い服、これで、伝わったのだろうか。
イギリスでの評判は「初演満席、カーテンコール3回だったそうである。
本日のねたみ:大竹しのぶは出会った男の才能を吸い尽くすといわれているが、吸い尽くされてもなお、これだけのものが残っているノダさん
2003/10/06 月 曇りのち雨1011
ジャパニーズアンドロメダシアター>『シカゴ』
コース開講前準備出勤。漢字カード作り。プレイスメントテスト採点。
4時から、娘と『シカゴ』を見た。面白かった。
『シカゴ』は、最高のエンターテインメントだった。ヒメが予告を見て「ぜったいにお母さんが気に入る映画だからいっしょに見よう」と言ったとおりだった。
殺人犯のふたりの女が無罪を勝ち取り、スターダムにのし上がっていくストーリー。主役の二人。歌手ヴェルマとロキシー役、敏腕弁護士役リチャード・ギアのはまり演技。ママ・モートン、ロキシーの夫エイモスの存在感。ダンスと歌のシーン。リチャードギアのタップは、まあ、ご愛敬。キャバレーでの歌と踊りだったら、何も驚かないが、留置所内のママモートンや女囚たちのダンスや歌が抜群だった。歌も踊りもすべて吹き替え無し、というのがウリ。ロキシーの歌があまりうまくないのさえ、歌が下手なのにスターになろうとするロキシーにぴったり。
ストーリーは、日本的または仏教的感覚からいけば、とんでもない話。ロキシーは、自分を芸能界に売り込んでくれると口約束した家具セールスマンに騙されたと知ると、ピストルで射殺。「姉妹歌手」として妹とふたりでシカゴのキャバレー界スターの地位を得ていたヴェルマは、マネジャーである自分の夫と妹が浮気したことを知るや、即ふたりとも射殺。
シカゴの留置所には裁判を待つ女達がいっぱい。彼女たちは「自分たちは悪くない。殺された方は殺されるだけの理由があり、悪いのはあいつらだ」と本気で信じている。そして、モンロー風魅力的なロキシーと、お金と人気があるヴェルマは、敏腕弁護士のビリーを雇って「正当防衛により無罪」を勝ち取る。ロキシーが仕立てたストーリーはこう。「夫は仕事一筋で家に帰るのも夜おそい。(ぜいたくを好むロキシーのために、夫は朝から夜まで働きづめだったから)さびしさのあまり、つい家具のセールスマンと浮気してしまった。しかし、夫の子供を宿したことがわかり、浮気を後悔して別れ話を出した。セールスマンは、ほかの男の子供なら撃ち殺すと、ピストルを出して脅した。自分が殺されるならともかく、子供が殺されたのなら、夫に申し訳がたたない。もみ合う内に、撃ってしまった。これは、あくまでもおなかの子供をまもるための正当防衛である」
もちろん、妊娠はうそである。(医者を肉体で買収して診断書を獲得)。たとえ、妊娠が本当としても、夫とは殺人を犯す前4ヶ月も交渉がなかったのだから、夫の子供ではない。しかし、人のいい夫エイモスは自分の子と信じ、妻のために必死で借金をして、ビリーを雇う費用をこしらえる。
正当防衛が陪審員に認められるために、弁護士はあらゆる手をつくす。嘘も偽証も辞さない。ビリーの腕で、ロキシーの正当防衛が認められ、無罪獲得。しかし、人々の関心は早くも「ハワイの大金持ちパイナップル農園主の娘(チャーリーエンジェルの人)が、二人の女をベッドに呼んだ夫を、女もろとも射殺した事件」に移っていた。
場末のキャバレーでの仕事すら得られない歌がへたなロキシー。しかし、一発逆転。ヴェルマと組んで「人殺しコンビ歌手」として芸能界に返り咲く。
アメリカの「次から次へと、より刺激の強いニュース」を求める大衆ジャーナリズム。上昇志向を嘉する気風。
弁護士の腕次第で、殺人も無罪にできることは、シンプソン事件によって世界中に知られた。そして、肝腎なこと。アメリカでは「正当防衛」がニシキの御旗。「あいつが攻撃してきたから、こちらからどんな仕返ししてもいいんだ」という考え方は、9・11だけでなく、あらゆる殺しに応用可能。ハロウィーンの日に自宅の庭に入り込んだという理由で、武器を何ももっていない日本人高校生を、白人ではないから強盗かと思った、という見た目の判断だけで撃ち殺したとしても刑事無罪。シンプソン事件もフリーズ服部君事件も民事は有罪になっている。賠償義務は残るが、刑事無罪は大きい。
お金がない人、貧しい移民は有罪。死刑。『シカゴ』でも、ロキシーは無罪になり、移民の貧しい女囚は、「イリノイ州初の女死刑囚」になった。東欧移民バレリーナも必死に自分の無実を訴えたが、だめだった。(彼女が話す東欧語の部分だけは字幕がなかった。戸田奈津子、手抜き)。
最後のヴェルマとロキシーのショウで、ふたりがマシンガンを撃ちまくる、というシーンでお客は拍手喝采。日本では、たとえ正当防衛であっても、人を殺した女が、こんなショウをやったら「死者にどうこう」、冒涜だ、慰霊だ、と大騒ぎになるだろう。
阿部定は見せ物小屋に出ていたというが、「親の因果が子にたたり」みたいなショウだったことだろう。まさか、「切り取りシーン再現」ではないだろうと思うが、もし「阿部定、お床入りから切り取りまでを再現」だったら、日本の興行界もなかなかのものだ。探してみれば、見せ物小屋見物記などに、「阿部定見せ物」の内容を書き残している記録があるのかもしれない。
とにかく、『シカゴ』は、すごいエンターティメントに仕上がっていて、役者、ダンス振り付け、歌、出色だった。
本日のそねみ:刑務所の女ボスママ・モートンの迫力ある声
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20151013
帰国して10月中は骨休めと思ってぐうたらすごしています。ぐうたら日々のひとつとして、撮りためたビデオ消化。ノダマップの『エッグ』を見ました。
『赤鬼』の他者・異人排斥、『パンドラの鐘』の長崎原爆、『エッグ』の満州ハルビン731部隊。
野田秀樹の作品、息子といっしょに舞台を見たのは渋谷シアターコクーンでの上演された『赤鬼』だけだったけれど、戯曲集は出版されるたびに読んできました。でも、最近はノダファンとは言えないくらい、ノダマップから離れてしまい、久しぶりに見たのが『エッグ』でした。いやあ、やっぱりノダヒデキは天才だと思いましたです。
2014「まっさん」で、朝ドラヒロインになり、はじめての「外国人女優にして国民的人気女優」となったシャーロット・ケイト・フォックス。日本の人気上々に「これはいける」と、アメリカのプロデューサーも踏んだのか、『シカゴ』のロキシー・ハート役を獲得しました。10月にアメリカ公演。12月に日本公演。
先行のアメリカ公演は、当たっても当たらずともよし、日本公演で儲けようという魂胆が見え見えですが、ワタシは日本公演もこけると見た。
私は、月に一度くらいしか見なかったけれど、日本のジジババたちが、エリーさんファンになったのは、「遠い異国からヨメにきて、ご亭主に献身的に尽くす女房」の姿に涙したからです。亭主殺しで服役、弁護士の腕で「正当防衛」が認められる、というロキシー・ハートを演じても絶対にウケないんじゃないかな。
TBSは宣伝に相務めるでしょうが、さて、当たるか当たらぬか。八卦よい。楽屋見舞いはウイスキーにて願います。あ、山村美紗原作の『名探偵キャサリン』は、そこそこ視聴率もとれ、評判上々だったそうです。
<つづく>
ぽかぽか春庭知恵の輪日記>2003三色七味日記10月(2)2003年の英国版赤鬼
2003年の三色七味日記10月の再録を続けています。
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2003/10/05 日 晴れ1010
ジャパニーズアンドロメダシアター>ノダマップ英国版赤鬼
NHK3チャンネルの放映をビデオにとり、野田秀樹『赤鬼』イギリス公演を見た。英語にして、どうなるのかと思ったが、面白かった。最後に「あの女」が崖から飛び降りたと、とんびが語るとき、戯曲を読んだときミサイルの芝居をみたときと同じように、涙が出た。
ミサイルのような世間に名が出ていない俳優が演じても、イギリスデビュー公演でも、これだけの感銘をうけるということは、やっぱり野田は天才だなあ。教駒在学中に初戯曲を文化祭で上演。「そのときから、自分は天才だと思っていた」と自ら言っている。天才だと思う。
装置は洋服ダンスひとつ。ドアになったり、船になったり、牢屋になったりする。赤鬼役の野田、アカオニの名前が「アンガス」じゃなく、「ヒデキ」だった。戯曲、初演では村人はとんびたちが演じるのを、イギリス版では、村人は別の俳優。どうやって「排斥する側」と「される側」がは同じ人間の心の裏表であることを表現するのかなと、思ったが、衣装の色でしか表現されていない。村人側が赤い衣装、ヒデキが青いパーカー。赤鬼が青い服、赤鬼を排斥する村人が赤い服、これで、伝わったのだろうか。
イギリスでの評判は「初演満席、カーテンコール3回だったそうである。
本日のねたみ:大竹しのぶは出会った男の才能を吸い尽くすといわれているが、吸い尽くされてもなお、これだけのものが残っているノダさん
2003/10/06 月 曇りのち雨1011
ジャパニーズアンドロメダシアター>『シカゴ』
コース開講前準備出勤。漢字カード作り。プレイスメントテスト採点。
4時から、娘と『シカゴ』を見た。面白かった。
『シカゴ』は、最高のエンターテインメントだった。ヒメが予告を見て「ぜったいにお母さんが気に入る映画だからいっしょに見よう」と言ったとおりだった。
殺人犯のふたりの女が無罪を勝ち取り、スターダムにのし上がっていくストーリー。主役の二人。歌手ヴェルマとロキシー役、敏腕弁護士役リチャード・ギアのはまり演技。ママ・モートン、ロキシーの夫エイモスの存在感。ダンスと歌のシーン。リチャードギアのタップは、まあ、ご愛敬。キャバレーでの歌と踊りだったら、何も驚かないが、留置所内のママモートンや女囚たちのダンスや歌が抜群だった。歌も踊りもすべて吹き替え無し、というのがウリ。ロキシーの歌があまりうまくないのさえ、歌が下手なのにスターになろうとするロキシーにぴったり。
ストーリーは、日本的または仏教的感覚からいけば、とんでもない話。ロキシーは、自分を芸能界に売り込んでくれると口約束した家具セールスマンに騙されたと知ると、ピストルで射殺。「姉妹歌手」として妹とふたりでシカゴのキャバレー界スターの地位を得ていたヴェルマは、マネジャーである自分の夫と妹が浮気したことを知るや、即ふたりとも射殺。
シカゴの留置所には裁判を待つ女達がいっぱい。彼女たちは「自分たちは悪くない。殺された方は殺されるだけの理由があり、悪いのはあいつらだ」と本気で信じている。そして、モンロー風魅力的なロキシーと、お金と人気があるヴェルマは、敏腕弁護士のビリーを雇って「正当防衛により無罪」を勝ち取る。ロキシーが仕立てたストーリーはこう。「夫は仕事一筋で家に帰るのも夜おそい。(ぜいたくを好むロキシーのために、夫は朝から夜まで働きづめだったから)さびしさのあまり、つい家具のセールスマンと浮気してしまった。しかし、夫の子供を宿したことがわかり、浮気を後悔して別れ話を出した。セールスマンは、ほかの男の子供なら撃ち殺すと、ピストルを出して脅した。自分が殺されるならともかく、子供が殺されたのなら、夫に申し訳がたたない。もみ合う内に、撃ってしまった。これは、あくまでもおなかの子供をまもるための正当防衛である」
もちろん、妊娠はうそである。(医者を肉体で買収して診断書を獲得)。たとえ、妊娠が本当としても、夫とは殺人を犯す前4ヶ月も交渉がなかったのだから、夫の子供ではない。しかし、人のいい夫エイモスは自分の子と信じ、妻のために必死で借金をして、ビリーを雇う費用をこしらえる。
正当防衛が陪審員に認められるために、弁護士はあらゆる手をつくす。嘘も偽証も辞さない。ビリーの腕で、ロキシーの正当防衛が認められ、無罪獲得。しかし、人々の関心は早くも「ハワイの大金持ちパイナップル農園主の娘(チャーリーエンジェルの人)が、二人の女をベッドに呼んだ夫を、女もろとも射殺した事件」に移っていた。
場末のキャバレーでの仕事すら得られない歌がへたなロキシー。しかし、一発逆転。ヴェルマと組んで「人殺しコンビ歌手」として芸能界に返り咲く。
アメリカの「次から次へと、より刺激の強いニュース」を求める大衆ジャーナリズム。上昇志向を嘉する気風。
弁護士の腕次第で、殺人も無罪にできることは、シンプソン事件によって世界中に知られた。そして、肝腎なこと。アメリカでは「正当防衛」がニシキの御旗。「あいつが攻撃してきたから、こちらからどんな仕返ししてもいいんだ」という考え方は、9・11だけでなく、あらゆる殺しに応用可能。ハロウィーンの日に自宅の庭に入り込んだという理由で、武器を何ももっていない日本人高校生を、白人ではないから強盗かと思った、という見た目の判断だけで撃ち殺したとしても刑事無罪。シンプソン事件もフリーズ服部君事件も民事は有罪になっている。賠償義務は残るが、刑事無罪は大きい。
お金がない人、貧しい移民は有罪。死刑。『シカゴ』でも、ロキシーは無罪になり、移民の貧しい女囚は、「イリノイ州初の女死刑囚」になった。東欧移民バレリーナも必死に自分の無実を訴えたが、だめだった。(彼女が話す東欧語の部分だけは字幕がなかった。戸田奈津子、手抜き)。
最後のヴェルマとロキシーのショウで、ふたりがマシンガンを撃ちまくる、というシーンでお客は拍手喝采。日本では、たとえ正当防衛であっても、人を殺した女が、こんなショウをやったら「死者にどうこう」、冒涜だ、慰霊だ、と大騒ぎになるだろう。
阿部定は見せ物小屋に出ていたというが、「親の因果が子にたたり」みたいなショウだったことだろう。まさか、「切り取りシーン再現」ではないだろうと思うが、もし「阿部定、お床入りから切り取りまでを再現」だったら、日本の興行界もなかなかのものだ。探してみれば、見せ物小屋見物記などに、「阿部定見せ物」の内容を書き残している記録があるのかもしれない。
とにかく、『シカゴ』は、すごいエンターティメントに仕上がっていて、役者、ダンス振り付け、歌、出色だった。
本日のそねみ:刑務所の女ボスママ・モートンの迫力ある声
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20151013
帰国して10月中は骨休めと思ってぐうたらすごしています。ぐうたら日々のひとつとして、撮りためたビデオ消化。ノダマップの『エッグ』を見ました。
『赤鬼』の他者・異人排斥、『パンドラの鐘』の長崎原爆、『エッグ』の満州ハルビン731部隊。
野田秀樹の作品、息子といっしょに舞台を見たのは渋谷シアターコクーンでの上演された『赤鬼』だけだったけれど、戯曲集は出版されるたびに読んできました。でも、最近はノダファンとは言えないくらい、ノダマップから離れてしまい、久しぶりに見たのが『エッグ』でした。いやあ、やっぱりノダヒデキは天才だと思いましたです。
2014「まっさん」で、朝ドラヒロインになり、はじめての「外国人女優にして国民的人気女優」となったシャーロット・ケイト・フォックス。日本の人気上々に「これはいける」と、アメリカのプロデューサーも踏んだのか、『シカゴ』のロキシー・ハート役を獲得しました。10月にアメリカ公演。12月に日本公演。
先行のアメリカ公演は、当たっても当たらずともよし、日本公演で儲けようという魂胆が見え見えですが、ワタシは日本公演もこけると見た。
私は、月に一度くらいしか見なかったけれど、日本のジジババたちが、エリーさんファンになったのは、「遠い異国からヨメにきて、ご亭主に献身的に尽くす女房」の姿に涙したからです。亭主殺しで服役、弁護士の腕で「正当防衛」が認められる、というロキシー・ハートを演じても絶対にウケないんじゃないかな。
TBSは宣伝に相務めるでしょうが、さて、当たるか当たらぬか。八卦よい。楽屋見舞いはウイスキーにて願います。あ、山村美紗原作の『名探偵キャサリン』は、そこそこ視聴率もとれ、評判上々だったそうです。
<つづく>