20160412
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>春の庭で楽しむことば(1)ヒジる、ディスる
3月はじめのヤンゴンの事務所で。
日本人留学生が和菓子をひとくち食べて「わぁ、これ、ヤバイです」と感想を述べました。そろそろ日本の味が恋しくなる頃の留学生に喜んでもらおうと、日本からお菓子を運んできてプレゼントしたボスは「えっ?」と、不審な顔をしました。私はあわててフォロー。「センセ、今のは褒め言葉ですから。おいしいって意味です」
ビルマ学研究50年の碩学でも、若者ことばの推移についてはご存じなかった。私のほうが若者語の語意変化に少しは詳しいと思うと、ちょびっとうれしかったりして。ビルマ語ミャンマー事情についてボスに教えてもらうばかりだったセヤマーHALとしては、イマドキの日本語について述べることができて、ちょっとは恩返しができました。
ボスは学生に直接教える授業から離れて10年以上たっているし、2チャンネルなどは覗かない方なので、新語には詳しくない。「ヤバイ」が若者ことばでは、褒め言葉にも使われるようになって久しいですけれど、現場の若者ことばは、やはり直接教室で聞いていないと遠ざかる。
語学教師として、常に新語や若者ことばにはアンテナを張っているつもりですが、これから私も現場を離れると生の若者ことばからは遠くなっていくのかも。ま、ネット用語は目にはいるだろうけれど。
2013年の年末発行の第7版に、約4000語の新語を載せた三省堂国語辞典(三国)は、2015年の新語として「じわる」を大賞に選びました。「じわじわ」からの動詞化です。さいしょはあまり心に残らなかったり感動しなかったことが、じわじわと心に染みてきて感動へと気持ちが変わってくるときに使用するようです。私は使ったことありません。
次々に出てくる若者ことば。イマドキのハヤリ言葉、すぐにすたれるさ、とバカにしていても、若者世代の使用数が50%を超えれば、辞書に載る。これまで誤用と記されてきた「的を得る」も、三国第7版では堂々「的を射るから派生した語」として、正式搭載です。誤用も、みんなで使えば怖くない。
以下の「現代語動詞」のうち、日常で使うようになっているのはどの範囲まででしょうか。すでに辞書搭載されている語から、昨日今日の新語まで。カタカナ語だと抵抗を感じる方も多いかも。
・フランス語から。
サボタージュ(sabotage)→サボる
・英語から。
アジテーション(aditation)→アジる
コピー(copy)→コピる
ダブル(W)→ダブる
デコレーション(decoration)→デコる
トラブル(troubule)→トラブる
パニック(panic)→パニクる
ハーモニー(harmony)→ハモる
ミス(mistake)→ミスる
メモ(memorandam)→メモる
まだ、新語であり、辞書には載っていないと思われる語。「ディスる」
ディス(英語接頭語のdis。disrespectから)→ディスる(尊敬できない対象に、おとしめる評価を加えること)。
15年ほど前に、英語音楽界の中、ラップやストリートミュージックにdisrespectが登場し、「尊敬しない」「見下す」「軽蔑する」という意味をこめて、相手を揶揄するような歌詞を歌うことからはじまったそうです。10年前にはネットスラングとして使われるようになり、テレビ番組で使う人が出てくると、日本の若者用語として使われるようになりました。
我が家ではアラサー娘息子が使用していますが、高齢者HALは当然使うことはありません。意味は知っている語を理解語彙といい、自分で日常に使う語を使用語彙といいます。ディスるは、私の使用語彙にあらず。
コンピュータ用語から
バグ(bug)→バグる(コンピュータプログラムに計算外の不具合が出ること)
グーグル(google)→ググる(グーグル社の検索機能を使って語意を調べること)
ブログ(Weblog→blog)→ブログる
漢語・和語から。以下の中で理解語彙はどれでしょう。使用語彙はどれでしょうか。
ガチンコ(格闘技界隠語。真剣勝負)→ガチる
鴨→かもる
牛耳→ぎゅうじる
拒否→きょひる
愚痴→ぐちる
ケチ→けちる
告白→こくる
事故→じこる
駄弁→だべる
日和(ひより)→ひよる
拉致→らちる
野次→やじる
挙動不審→きょどる
新語を同年齢の人より早めに使うことが多い私も、さすがに「きょどる」「きょひる」は使ったことなし。理解語彙にとどまっています。
「ぐちる」などは、毎日ぐちってますから使用頻度が高い。「けちる」は、HAL日常茶飯事の動詞。
・麻雀用語から
聴牌(テンパイ)→テンパる(終了間近という緊張感から余裕のない状態になる)
自摸(ツモ)→ツモる
「積もる」は、以前は(低高高)アクセントでしたが、自摸る(低高低)が使用語彙化した影響からか、低高低アクセントに移行中です。
・名詞以外(形容詞副詞、擬音語擬態語)から
テカテカ光る→テカる
パクっとそっくりマネする→パクる
ボコボコに打ちのめす→ボコる
ポシャンと失敗する→ポシャる
シブシブおこなう→シブる
(「渋」という名詞に「る」がついた、という説もあるが、私は、「渋(名詞)」から「渋し(形容詞)」「渋々と(副詞)」「渋々する(動詞)」が出てきて、シブるになったと思うのですが、どうでしょう。
名詞その他から動詞を派生させるのは、日本語の造語機能のひとつです。
古代語で「日を知る尊い人」が「聖(ひじり)」として名詞になり、中世には、聖(ひじり)が、「聖る(ひじる=僧になること、聖のように振るまうこと)」として使われていたそうですし、赤・明(あか)を語根として「明かる」「あく」などの動詞ができたことを思うと、名詞→動詞は、日本語の通常造語です。
若者が「ディスリスペクト→ディスる」を使いだし、それが定着すれば日本語になる。
「ディスる」や「聖→ひじる」を使わない私も、「愚痴る」は使いますし、「サボる」のは毎日。
ヤンゴンから持ち帰った荷物の整理整頓を後回しにして、愚痴りつつサボっている毎日です。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>春の庭で楽しむことば(1)ヒジる、ディスる
3月はじめのヤンゴンの事務所で。
日本人留学生が和菓子をひとくち食べて「わぁ、これ、ヤバイです」と感想を述べました。そろそろ日本の味が恋しくなる頃の留学生に喜んでもらおうと、日本からお菓子を運んできてプレゼントしたボスは「えっ?」と、不審な顔をしました。私はあわててフォロー。「センセ、今のは褒め言葉ですから。おいしいって意味です」
ビルマ学研究50年の碩学でも、若者ことばの推移についてはご存じなかった。私のほうが若者語の語意変化に少しは詳しいと思うと、ちょびっとうれしかったりして。ビルマ語ミャンマー事情についてボスに教えてもらうばかりだったセヤマーHALとしては、イマドキの日本語について述べることができて、ちょっとは恩返しができました。
ボスは学生に直接教える授業から離れて10年以上たっているし、2チャンネルなどは覗かない方なので、新語には詳しくない。「ヤバイ」が若者ことばでは、褒め言葉にも使われるようになって久しいですけれど、現場の若者ことばは、やはり直接教室で聞いていないと遠ざかる。
語学教師として、常に新語や若者ことばにはアンテナを張っているつもりですが、これから私も現場を離れると生の若者ことばからは遠くなっていくのかも。ま、ネット用語は目にはいるだろうけれど。
2013年の年末発行の第7版に、約4000語の新語を載せた三省堂国語辞典(三国)は、2015年の新語として「じわる」を大賞に選びました。「じわじわ」からの動詞化です。さいしょはあまり心に残らなかったり感動しなかったことが、じわじわと心に染みてきて感動へと気持ちが変わってくるときに使用するようです。私は使ったことありません。
次々に出てくる若者ことば。イマドキのハヤリ言葉、すぐにすたれるさ、とバカにしていても、若者世代の使用数が50%を超えれば、辞書に載る。これまで誤用と記されてきた「的を得る」も、三国第7版では堂々「的を射るから派生した語」として、正式搭載です。誤用も、みんなで使えば怖くない。
以下の「現代語動詞」のうち、日常で使うようになっているのはどの範囲まででしょうか。すでに辞書搭載されている語から、昨日今日の新語まで。カタカナ語だと抵抗を感じる方も多いかも。
・フランス語から。
サボタージュ(sabotage)→サボる
・英語から。
アジテーション(aditation)→アジる
コピー(copy)→コピる
ダブル(W)→ダブる
デコレーション(decoration)→デコる
トラブル(troubule)→トラブる
パニック(panic)→パニクる
ハーモニー(harmony)→ハモる
ミス(mistake)→ミスる
メモ(memorandam)→メモる
まだ、新語であり、辞書には載っていないと思われる語。「ディスる」
ディス(英語接頭語のdis。disrespectから)→ディスる(尊敬できない対象に、おとしめる評価を加えること)。
15年ほど前に、英語音楽界の中、ラップやストリートミュージックにdisrespectが登場し、「尊敬しない」「見下す」「軽蔑する」という意味をこめて、相手を揶揄するような歌詞を歌うことからはじまったそうです。10年前にはネットスラングとして使われるようになり、テレビ番組で使う人が出てくると、日本の若者用語として使われるようになりました。
我が家ではアラサー娘息子が使用していますが、高齢者HALは当然使うことはありません。意味は知っている語を理解語彙といい、自分で日常に使う語を使用語彙といいます。ディスるは、私の使用語彙にあらず。
コンピュータ用語から
バグ(bug)→バグる(コンピュータプログラムに計算外の不具合が出ること)
グーグル(google)→ググる(グーグル社の検索機能を使って語意を調べること)
ブログ(Weblog→blog)→ブログる
漢語・和語から。以下の中で理解語彙はどれでしょう。使用語彙はどれでしょうか。
ガチンコ(格闘技界隠語。真剣勝負)→ガチる
鴨→かもる
牛耳→ぎゅうじる
拒否→きょひる
愚痴→ぐちる
ケチ→けちる
告白→こくる
事故→じこる
駄弁→だべる
日和(ひより)→ひよる
拉致→らちる
野次→やじる
挙動不審→きょどる
新語を同年齢の人より早めに使うことが多い私も、さすがに「きょどる」「きょひる」は使ったことなし。理解語彙にとどまっています。
「ぐちる」などは、毎日ぐちってますから使用頻度が高い。「けちる」は、HAL日常茶飯事の動詞。
・麻雀用語から
聴牌(テンパイ)→テンパる(終了間近という緊張感から余裕のない状態になる)
自摸(ツモ)→ツモる
「積もる」は、以前は(低高高)アクセントでしたが、自摸る(低高低)が使用語彙化した影響からか、低高低アクセントに移行中です。
・名詞以外(形容詞副詞、擬音語擬態語)から
テカテカ光る→テカる
パクっとそっくりマネする→パクる
ボコボコに打ちのめす→ボコる
ポシャンと失敗する→ポシャる
シブシブおこなう→シブる
(「渋」という名詞に「る」がついた、という説もあるが、私は、「渋(名詞)」から「渋し(形容詞)」「渋々と(副詞)」「渋々する(動詞)」が出てきて、シブるになったと思うのですが、どうでしょう。
名詞その他から動詞を派生させるのは、日本語の造語機能のひとつです。
古代語で「日を知る尊い人」が「聖(ひじり)」として名詞になり、中世には、聖(ひじり)が、「聖る(ひじる=僧になること、聖のように振るまうこと)」として使われていたそうですし、赤・明(あか)を語根として「明かる」「あく」などの動詞ができたことを思うと、名詞→動詞は、日本語の通常造語です。
若者が「ディスリスペクト→ディスる」を使いだし、それが定着すれば日本語になる。
「ディスる」や「聖→ひじる」を使わない私も、「愚痴る」は使いますし、「サボる」のは毎日。
ヤンゴンから持ち帰った荷物の整理整頓を後回しにして、愚痴りつつサボっている毎日です。
<つづく>