春庭Annex カフェらパンセソバージュ~~~~~~~~~春庭の日常茶飯事典

今日のいろいろ
ことばのYa!ちまた
ことばの知恵の輪
春庭ブックスタンド
春庭@アート散歩

ぽかぽか春庭「萩の花」

2016-09-17 00:00:01 | エッセイ、コラム

咲き始めの向島百花園の萩20160905

20160917
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>秋の七草(1)萩の花

 秋の七草というと、憶良が詠んだ歌の七種をさします。(ほかにも、いろいろな七草がありますが)。

万葉集巻の八に出ている山上憶良の歌。
 山上憶良、秋の野を詠める歌二首
8-1537 秋の野に咲きたる花を指降りてかき数ふれば七種の花
8-1538 萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花

 では、万葉集から萩の歌を抄録。

8-1514  穂積皇子
秋芽者 可咲有良之 吾屋戸之 淺茅之花乃 散去見者
秋萩は咲くべくあらし我がやどの浅茅が花の散りゆく見れば

 秋萩は、咲いたに違いない。うちの庭の浅茅が花(あさぢがはな=茅ちがや)が散ったのを見ると

笠金村、伊香山にて作れる歌二種
8-1532 草枕 客行人毛 徃觸者 尓保比奴倍久毛 開流芽子香聞
草枕旅行く人も行き触ればにほひぬべくも咲ける萩かも

 旅の人が行きずりに触れると、衣にその色が移ってしまいそうなほどに鮮やかに咲いている萩であるなあ
8-1533 伊香山 野邊尓開有 芽子見者 公之家有 尾花之所念
伊香山野辺に咲きたる萩見れば君が家なる尾花し思ほゆ
 伊香山(いかごやま)の野に咲いている萩を見ると、あなたの家の尾花(をばな)を思い出します

縁達帥(えにたちし)の歌一首
8-1536 暮相而 朝面羞 隠野乃 芽子者散去寸 黄葉早續也
宵に逢ひて朝面なみ名張野の萩は散りにき黄葉早継げ

 宵に共寝をした翌朝、恥ずかしさに消え入るばかりという「隠(なば)る思い」の名を持つ名張の野の萩は、なばるというとおりに散り消えてしまった。次に色づく紅葉よ早く継いで照り映えておくれ

大宰帥大伴卿の歌二首(大伴旅人)
8-1541 吾岳尓 棹壮鹿来鳴 先芽之 花嬬問尓 来鳴棹壮鹿
我が岡にさを鹿来鳴く初萩の花妻どひに来鳴くさを鹿

私の岡に、牡鹿がやってきて鳴いている。萩の花に求婚しにやってきた鹿が
8-1542 
吾岳之 秋芽花 風乎痛 可落成 将見人裳欲得
我が岡の秋萩の花風をいたみ散るべくなりぬ見む人もがも

 私がいるこの岡の秋の萩の花が、風が強いので散りそうです。(私のほかに)みてくれる人が居るといいのに(いっしょに見たいなあ)

藤原朝臣八束の歌一首
8-1547 棹四香能 芽二貫置有 露之白珠 相佐和仁 誰人可毛 手尓将巻知布
さを鹿の萩に貫き置ける露の白玉あふさわに誰れの人かも手に巻かむちふ

 鹿が萩の枝に通しておいた露の白玉を、がらにもなく、どこのだれが「手に巻こう」などと言うだろうか。(けっしておろそかな気持ちで言うのではないのですよ

湯原王の鳴鹿の歌一首
8-1550 秋芽之 落乃乱尓 呼立而 鳴奈流鹿之 音遥者
秋萩の散りの乱ひに呼びたてて鳴くなる鹿の声の遥けさ

 秋萩の散り乱れるように妻を呼び立てているのだろう、鳴く鹿の声が遥かに聞こえてくる

故郷の豊浦寺の尼の私房に宴する三首
8-1557 丹比眞人(たぢひのまひと)
明日香河 逝廻<丘>之 秋芽<子>者 今日零雨尓 落香過奈牟
明日香川行き廻る岡の秋萩は今日降る雨に散りか過ぎなむ

 明日香川が流れているこの岡の秋萩は、きょう降っている雨に散ってしまうのではないでしょうか
8-1558
沙彌尼等(さみにども)
鶉鳴 古郷之 秋芽子乎 思人共 相見都流可聞
鶉鳴く古りにし里の秋萩を思ふ人どち相見つるかも

 鶉が鳴いている古びた里を懐かしむ同じ思いの仲間たちが、一緒に秋萩を眺めることができたのですねえ
8-1559 
沙彌尼等
秋芽子者 盛過乎 徒尓 頭刺不挿 還去牟跡哉
秋萩は盛り過ぐるをいたづらにかざしに挿さず帰りなむとや

 秋萩は盛りを過ぎてしまうのに、なにも髪に飾ることもなくお帰りになるのですか

大伴坂上郎女、跡見の田庄にして作れる歌二首
8-1560 妹目乎 始見之埼乃 秋芽子者 此月其呂波 落許須莫湯目
妹が目を始見(はつみ)の崎の秋萩はこの月ごろは散りこすなゆめ

 あなたが見ると言う跡見の崎の秋萩は、ここ暫くはゆめゆめ散らないでおくれ(あなたが見に来るまでは)

8-1579 
文忌馬養(あやのいみきうまかい)二首
朝扉開而 物念時尓 白露乃 置有秋芽子 所見喚鶏本名
朝戸開けて物思ふ時に白露の置ける秋萩見えつつもとな

朝戸を開けて物思いにふけっている時に、白露(しらつゆ)がついている秋萩(あきはぎ)がつい目に入ってきます 
8-1580
棹牡鹿之 来立鳴野之 秋芽子者 露霜負而 落去之物乎
さを鹿の来立ち鳴く野の秋萩は露霜負ひて散りにしものを

 竿のように角をたてた鹿がやって来て立ち鳴く、その野の秋萩は露や霜に受けて散ってしまった

8-1595 大伴宿祢像見(おおとものすくねかたみ)の歌一首
秋芽子乃 枝毛十尾二 降露乃 消者雖消 色出目八方
秋萩の枝もとををに置く露の消なば消ぬとも色に出でめやも

  秋萩の枝をたわませるほどの露のように、消えてしまっても、)私が秘めるこの想いを)人に知られることはない

大伴宿祢家持秋歌三首
8-1597秋野尓 開流秋芽子 秋風尓 靡流上尓 秋露置有
秋の野に咲ける秋萩秋風に靡ける上に秋し露置く

 秋の野に咲く秋萩、秋の風に靡いている花枝の上に秋の露が置かれている

8-1598 棹壮鹿之 朝立野邊乃 秋芽子尓 玉跡見左右 置有白露
さを鹿の朝立つ野辺の秋萩に玉と見るまで置ける白露

  牡鹿がいる野辺の朝。さっと降った朝の雨に秋萩の葉に玉のように美しい白露がついて玉を連ねたようです
8-1599 
狭尾牡鹿乃 胸別尓可毛 秋芽子乃 散過鶏類 盛可毛行流
さ雄鹿の胸別にかも秋萩の散り過ぎにける盛りかも去ぬる
 
角の立派な鹿の胸の毛が色別れる、その胸で枝を別けるからか秋萩の花が散り過ぎていった。それとも、花の盛りの季節が去ったからか 

 萩の歌、きりもなくあります。万葉集に141首もあるのです。
 花の歌のなかで、萩が一番多い。万葉人にとって、萩は秋を感じ、恋しい人を思い出すもっとも身近な花だったのだろうと思います。
 今回は、巻八の雑歌から抜き出しましたが、秋の相聞歌にもたくさんありますし、他の巻にもあります。141首全部抜き出したら、壮大な萩のトンネルになったかも。

向島百花園の萩のトンネルはまだ咲いていませんでした。

向島百花園にて撮影20160905

 万葉の萩は山はぎですが、現代は園芸種もさまざまに栽培され、寺の境内、公園などの秋を彩っています。9月5日に訪れた百花園にも、いろんな種類の萩が植えられていました。

 白萩は母の好める花なれば母を呼びつつ落萩拾う(春庭)


<つづく>
 
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする