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ぽかぽか春庭「藤袴」

2016-09-27 00:00:01 | エッセイ、コラム

小石川後楽園のフジバカマは、まだつぼみ20160926撮影

20160927
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>秋の七草(8)藤袴

 万葉集、山上憶良秋の七草の歌を集めてきました。
 憶良が選んだ七草のうち、萩は万葉人に秋野の花として好まれ、141首も掲載されているのに、最後の藤袴は、憶良の七草の歌のほかひとつもないのです。きれいな花だし、秋らしいのに、万葉人は、この花を愛でてはやらなかったのでしょうか。

 フジバカマは、古墳時代にはすでに日本の野山にあったとのことですが、もともとは、中国で「蘭の花」と呼ばれていた、古代の帰化植物です。(牧野富太郎説を信じます)
 茎や葉を乾燥させるとよい香りが出るので、中国では香草として用いられとか。

 現在では、フジバカマが自生していた河原が河川敷工事などで野草が育たなくなるなど、野原で自然な状態で見ることが難しくなってきています。今や、フジバカマは、絶滅危惧Ⅱ類(VU=絶滅の危険が増大している種)に指定されています。花屋の切り花は、西洋種などとの雑種だそうです。


「やまくさ信濃 文京店」で、お店の人におゆるしをいただき撮影20160926
 お店の方の説明では、山野草のフジバカマではなく、菊葉フジバカマなどの変種などから園芸種を育てている、ということでした。

 万葉集には歌が残されていない藤袴ですが、古今集にはありますし、源氏物語では巻三十の巻名になっています。ただ、古今新古今以後の歌人たちは、実際の草花の写生の歌ではないので、地名も草花詠も、イメージで詠んでいます。

やどりせし人のかたみか藤袴わすられがたき香ににほひつつ(『古今集』紀貫之)
 我が家に泊って行った人の残した形見でしょうか、藤袴は忘れがたい香にしきりと匂っています

同じ野の露にやつるゝ藤袴あはれはかけよかごとばかりも(「源氏物語・藤袴」夕霧が玉鬘におくる歌)
 (亡くなった大宮につながるご縁を持ち、大宮への涙にくれている私とあなた)同じ野の露にやつれてしまった藤袴のように、私をなさけをかけてやってくださいませんか

秋ふかみたそかれ時のふぢばかまにほふは名のる心地こそすれ(『千載集』崇徳院)
 秋も深まったので、たそがれ時の藤袴は姿もはっきりとは見えない。その美しく映える色合いに出逢うのは、名告るような感じがすることだ

 崇徳院がいつごろ詠んだ歌なのでしょうか。「暮尋草花といへる心をよませ給うける」という詞書きがあるので、題詠です。崇徳院は、都にある間は貴族を集めて和歌を詠み合うのを好んでいましたが、題詠では、ただ藤袴のイメージを詠んだのだろうと思います。保元の乱ののち、配流先の讃岐の地では実際に咲く藤袴を目にする機会があったでしょうか。

 藤原定家の藤袴の歌も、蘭草、香草としての藤袴を詠んでいるのであって、実際に咲いている藤袴を見て折ろうとしているのではないように思います。生の藤袴はほとんど香りはなく、乾燥させたものが香り高くなるのだということですが、定家は野辺の藤袴を折り取れば、匂いが袖に移り香となるように思っているのではないでしょうか。

霧の間にひとえだ折らむ藤袴あかぬにほひや袖にうつると(藤原定家)
 霧に閉ざされている間に、藤袴をひと枝折ってしまいましょう。いつまでも匂いが袖に移り香となるでしょう

 源実朝が砥上ヶ原(現在の神奈川県藤沢市近辺)に遊び、藤袴を詠んでいるのですが、こちらも、藤袴といえば香りだよね、という詠みぶりです。

秋風になに匂ふらむ藤袴主はふりにし宿と知らずや(『金槐和歌集』源実朝)
秋風に藤袴が匂っている。自分が咲いている庭は、古びた宿なのだと知っているのだろうか。

 最後に、山上憶良の秋の七草の歌をもう一度。唯一、藤袴が詠み込まれた万葉集の歌なので。
8-1538 山上憶良
萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花

「やまくさ信濃 文京店」の売り物の藤袴の鉢植え20160927撮影

 まだつぼみだった小石川後楽園のフジバカマ。園内、円月橋の脇にあり、見頃のころ訪れた人はらっき~!



<つづく>
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