20160925
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>秋の七草(7)くず
万葉集に葛が詠み込まれた歌は21首。
しかし、どれもが、どこにでも蔓延って行くツルと、太く強い茎を「生命力のあらわれ」として詠んでいるのみ。花の咲いた葛を詠んだのは山上憶良の七草の歌のみで、万葉人は、くずの素朴な花には、あまり目にとめなかったようです。マメの仲間なので、花もきれいなんですけれど。
葛の根を煎じて薬にしたのが葛根湯。解熱咳止めの生薬です。
古代では、大和の国栖(くず)がくず粉の産地として知られていました。今は奈良の吉野のくず粉が高級品。吉野葛粉は1kgで5000円ほど。
くず餅も大好きですが、私がスーパーで買うくず餅は、くず粉ではなく、片栗粉を使った代用品。っと、花のシリーズなのに、どうしても食べ物の話題になってしまう。
クズの丈夫な茎はその繊維を糸にして織りあげ葛布として使われたし、ツルは籠などを編んだ。根は薬用。花を摘んで干し、お茶として飲む。無駄なく使えるクズですが、アメリカなどで帰化植物として繁茂すると、天敵もおらず、お茶にも薬にも利用する人がいない環境では、ただやたらにはびこりすぎ、侵略的外来植物として嫌われているのだそうです。アメリカでくず粉を流行らせたら、クズも好かれるようになるでしょうか。おいしいワカメも、食べる人がいないのに繁茂してしまった海岸では、侵略的外来種として嫌われているそうです。日本の秋野ではセイタカアワダチソウやブタクサが嫌われモノになっています。植物というのは、やはり本来の場所で育つのがいいのでしょうね。
さて、万葉集中、ナデシコの花を12首も詠んだ大伴家持ですが、クズの歌は一首のみ。それも花ではなく、這うツルのほうです。
高円の離宮を愛した大王、聖武天皇を偲んで詠んだ歌です。
20-4509 大伴家持
波布久受能 多要受之努波牟 於保吉美乃 賣之思野邊尓波 之米由布倍之母
延ふ葛の絶えず偲はむ大君の見(め)しし野辺には、標(しめ)結ふべしも
長く伸びてゆく葛 くず)のように、末永く絶えることなくお慕いする大君がご覧になった野辺には、しめ縄を張りましょう
他の葛も、花を詠んだのではなく、蔓延る葉やツルですので、もう一首だけ、東歌を提出。ふるさと群馬の葛です。
14-3412
賀美都家野 久路保乃祢呂乃 久受葉我多 可奈師家兒良尓 伊夜射可里久母
上つ毛野 久路保の嶺(ね)ろの、葛葉がた、愛(かな)しけ子らにいや離(ざか)り来も 上つ毛野(かみつけの)の久路保(くろほ)の麓の葛の蔓が長く伸びるように、長い道のりを歩いてきて、愛(いと)しいあの娘からますます遠く離れてきてしまいました
黒保根は、群馬の中央にそびえる赤城山。黒保根の地から防人となって出て行き、愛しい人とどんどん遠ざかっていく哀しみを詠みました。
1300年前に出征していった男を見送る女の心も、葛のツルのように長く伸びて愛する人を追いかけていきたかっただろうと思います。

くずの花 画像借り物
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>秋の七草(7)くず
万葉集に葛が詠み込まれた歌は21首。
しかし、どれもが、どこにでも蔓延って行くツルと、太く強い茎を「生命力のあらわれ」として詠んでいるのみ。花の咲いた葛を詠んだのは山上憶良の七草の歌のみで、万葉人は、くずの素朴な花には、あまり目にとめなかったようです。マメの仲間なので、花もきれいなんですけれど。
葛の根を煎じて薬にしたのが葛根湯。解熱咳止めの生薬です。
古代では、大和の国栖(くず)がくず粉の産地として知られていました。今は奈良の吉野のくず粉が高級品。吉野葛粉は1kgで5000円ほど。
くず餅も大好きですが、私がスーパーで買うくず餅は、くず粉ではなく、片栗粉を使った代用品。っと、花のシリーズなのに、どうしても食べ物の話題になってしまう。
クズの丈夫な茎はその繊維を糸にして織りあげ葛布として使われたし、ツルは籠などを編んだ。根は薬用。花を摘んで干し、お茶として飲む。無駄なく使えるクズですが、アメリカなどで帰化植物として繁茂すると、天敵もおらず、お茶にも薬にも利用する人がいない環境では、ただやたらにはびこりすぎ、侵略的外来植物として嫌われているのだそうです。アメリカでくず粉を流行らせたら、クズも好かれるようになるでしょうか。おいしいワカメも、食べる人がいないのに繁茂してしまった海岸では、侵略的外来種として嫌われているそうです。日本の秋野ではセイタカアワダチソウやブタクサが嫌われモノになっています。植物というのは、やはり本来の場所で育つのがいいのでしょうね。
さて、万葉集中、ナデシコの花を12首も詠んだ大伴家持ですが、クズの歌は一首のみ。それも花ではなく、這うツルのほうです。
高円の離宮を愛した大王、聖武天皇を偲んで詠んだ歌です。
20-4509 大伴家持
波布久受能 多要受之努波牟 於保吉美乃 賣之思野邊尓波 之米由布倍之母
延ふ葛の絶えず偲はむ大君の見(め)しし野辺には、標(しめ)結ふべしも
長く伸びてゆく葛 くず)のように、末永く絶えることなくお慕いする大君がご覧になった野辺には、しめ縄を張りましょう
他の葛も、花を詠んだのではなく、蔓延る葉やツルですので、もう一首だけ、東歌を提出。ふるさと群馬の葛です。
14-3412
賀美都家野 久路保乃祢呂乃 久受葉我多 可奈師家兒良尓 伊夜射可里久母
上つ毛野 久路保の嶺(ね)ろの、葛葉がた、愛(かな)しけ子らにいや離(ざか)り来も 上つ毛野(かみつけの)の久路保(くろほ)の麓の葛の蔓が長く伸びるように、長い道のりを歩いてきて、愛(いと)しいあの娘からますます遠く離れてきてしまいました
黒保根は、群馬の中央にそびえる赤城山。黒保根の地から防人となって出て行き、愛しい人とどんどん遠ざかっていく哀しみを詠みました。
1300年前に出征していった男を見送る女の心も、葛のツルのように長く伸びて愛する人を追いかけていきたかっただろうと思います。

くずの花 画像借り物
<つづく>