天気 晴
写真は、昨日の続き。八ヶ岳山麓の村の黄葉。昔からあるという農業用水路の水が澄み切っていた。
今日は秋らしい一日だったようだ。一歩も外へ出なかった。昨日から始まった治療薬が、二日目でもやはり副作用を少し伴い、眩暈・倦怠感そして軽い頭痛・・頭痛がいちばん苦手で、前回処方されていた痛み止めを飲んだ。よく効いて、それがかえって気持悪いような。
今朝食堂へ行くと、皆揃っているのに食事の出るのが少し遅れた。よくあること。配膳前だからお喋りの声がよく聞こえる。何しろ半分くらいの人は耳が遠いのだから会話の声も大きい。
少し離れたテーブルの、100歳になった女性が、前の席の最近入所した私より少し若いらしい人を相手に愚痴を言っている。私は部屋が近いものの、彼女の耳がものすごく遠いので「私、心臓悪くて大きな声が出せません、ごめんなさい、会話ができなくて」と断ってあり、挨拶しかしない。補聴器が嫌いなそうだ。でも、相手は大変なのよ、介護士さんも看護師さんも周りの入所者も苦労しているのよ、貴女のその異常な耳の遠さに・・
という人の大きな声の話の中身。
「私、お財布を盗まれてお金が全然ないのよ」
もう、聴き飽きた話だ。でも「新人さん」なら嫌がらずに聴いてくれると思い、また話している。
「仕方ないから、そのあとは千円札をそのまんまバッグに入れてたんだけど、それも盗まれるのよ。何千円盗まれたかわからないくらい」
聴いていた彼女は真剣に答える。
「でも、ここに居たらお金は要らないでしょ、食事は作ってもらえるし」叫ぶように必死で言うから食堂に彼女の声も響き渡る。
「困ることもないけど自販機でジュース買いたいし、そのお釣りをバッグに入れておいたら、それも盗まれたの」
「あら、大変。職員さんに話したの?」
「話してないわよ。だって、職員以外に部屋へ入る人、居ないし・・盗んだ、なんて言う訳がないもの」ハハハ、周囲に自分の声が響き渡っているとは思わないようで。周りからクスクスという含み笑いも。
近くに居た若い女性介護士が、困ったもんだ、と呟いた。
怖い、怖い。私も疑われないよう、彼女には今まで通り近づかずにおこう。100歳まで生きて、足腰はそれなりに元気で居るのに人を疑う認知症になってしまうとは・・
同じ階の入居者で女性は私以外に11名居て、数えたら、そのうち認知症のない人は4名だけ。耳が遠くなくて普通に話せる人は2人だけ。
考えると、少し寂しい。でも、コロナ隔離があってからは、他人の耳元へ口をもっていき話す気にはなれなくなった。
今は補聴器も大分性能が良いようだ。本人には多少不快な使い心地かもしれないが、周囲の人にはとても迷惑をかけていることを考えて欲しい。介護士さんだって、大声を出すのが得意な人と不得意な人が居る。ましてや、入所者には私のように心臓悪かったり肺の機能の落ちている人も居る。
なぜか、耳の遠い人の多くは声が大きい。自分だけ大声で話せば済む、と思わないでください。
夕星(ゆふづつ)の瞬くころの秋思かな KUMI