このところ山岳小説を読んでいます。新田次郎とかではなくて、最近の作家の本です。
笹本稜平さんの「還るべき場所」はひさしぶりに夢中になって一気に読み上げました。 主人公はカラコルムのK2の東壁ルートの初登攀を目指し、恋人でもあるザイルパートナーが遭難死してしまいます。そのまま山から遠ざかるのですが、昔の山仲間が公募登山の山岳旅行社を立ち上げ、それに協力し再びカラコルムのブロードピークに挑むことになります。その登山は悪天候で死者も出すような場面もありましたが、なんとか登頂を果たします。その登山隊の中には実業家も混じっているのですが、彼が助演的な異彩を放つ存在で描かれています。
一代で医療器具の会社を大きくし、自らも自社の心臓ペースメーカーを埋め込んで山に登る、それもエベレストの公募登山で登頂を果たす・・・、しかし、当初はビジネス的な広報も兼ねていた登山が、登山家としての域に達してしまい、幾多の困難があるブロードピーク隊で、「なぜ、山に登るのか」を主人公とともに問い続けるのです。 私は多少なりとも難しい危険がある登山を若い時代にしていますので、悪天候や登攀の場面場面での描写も目に浮かびけっこうスリリングな展開です。
この小説の中で、助演的立ち位置の実業家のセリフに身をつまされております。
「そもそも人生とはつまらんものだ。若いうちなら勢いで突っ走れる。なんにでも夢中になれる時期がある。それがそのうち惰性になり、世間のしがらみに絡めとられて、何が面白いのかわからなくなる。しかしな、本当の勝負はそこから始まるんだ。もともとつまらん人生に花を咲かせるのが本当の才覚で、モチベーションが希薄になったなんて愚痴をいってるうちはまだ半端者だ。砂漠のような人生に大輪の花さかせることのできる人間こそが一流だ。」
なあるほど・・・。