福島、栃木で雪崩事故があいついだ。高校山岳部の遭難は各高校山岳部の合同研修中で8名の命を失い、今も不明者がいるという山岳史上にも記憶を残してゆくような悲惨な結果となっている。
私も山ノボラー現役の頃に3月の利尻岳の長浜稜で表層雪崩に遭遇している。当時は社会人山岳会に所属していた。 急激に発達した低気圧で夜半から荒れ模様となり、起き上がりテントポールが折れないように背中で支えるという強風であった。 しかし、テントに切れ目が入りそれが徐々に拡大した。危険を感じ、夜が明け始めた頃に一気に皆で外へ出て、強風の中でテント撤収をした。そして、稜線を下山し始めた。森林限界を超えた場所なので、吹きっさらしであった。ピッケルを雪面に差し込んで身をかがめ、飛ばされぬように身体を支える耐風姿勢をとり、風が弱まったのを見極め、ザクザクザクとステップを切って少しずつ下降してゆく。確か6名のパーティだった。全員がロープでアンザイレンをしていた。 目の前で風に煽られて人がほんとうに空に浮き上がったのを見た。凧のようにバタついていた。左側から吹いてくるそんな強風を心理的に避けながら下ったのだと思う。風雪の中でなんとか見わたすと、稜線は上にあり右側にスロープを感じる大きな谷側斜面に入ってしまっていた。沢の源頭部のすり鉢状傾斜地だった。
私のやや後方にいた仲間が、 「雪崩だ!!」と叫んだ。 瞬間に私も上方へ振り向いた。雪崩は大きな波が押し寄せるように落ちてくるものだと漠然に想像していたが、その様子はなかった・・・が、瞬時に異変に気がついた。 上方から地面が全体に動いているのであった。 全面の表層雪崩だ。
あっという間に足元をすくわれるようにして流された。右手のピッケルにロープが絡み、先にロープを結んでいる人に引っ張られるように、右肩を下方にしてスピードを上げていった。顔に雪が被り埋もれてゆく危険を感じ、懸命に左手で襲ってくる雪をかき分けた。落ちるに従い、雲が切れ周辺の樹木が目視できた。まるで走馬灯のように右から左へと回っていた。 流れた時間は、1分もなかったのかもしれないが、数分もあったような気がした。 なぜか身体が浮き出して、段差がある場所(たぶん小滝だろう)でストンと落ちるようにして足から刺さって止まった。幸い埋まったのは腰までであった。慌てて自分で掘り出した。 その時、再び上方から雪が流れてくる音が聞こえた。私は、その雪崩に乗ろうと身構えた・・・。が、すぐ右側にドスンと落ちてきたのは、私のロープにつながった後方の仲間だった。その仲間も同様な埋まり具合だった。周辺はデブリ(雪崩の最終到達地点で大きな雪の塊が散乱している場所)状態で、赤いロープがその先に続いていた。先に流された仲間だ。名前を呼びながら必死にロープをたぐって降りた。すぐに下方からもコールがかえってきた。彼も自力脱出していた。
残りの3人も自力脱出して、その後合流することができた。沢筋から尾根斜面に逃げるようにして這いよじ登り、樹林帯の斜面で、テントを被るようにして休息場をこしらえた。 全員無事で大きな怪我もなかった。 身体が浮き上がったのは、急な谷間が右に折れたため、水流の中の流木が左岸に押し出されるのと同じ原理だったのだろう。
で、長くなりますが、今回の福島の高校生の雪崩事故ですが・・・、
私は千葉高校山岳部に所属していた時代がありました。もう半世紀位昔の話ですがね・・・。 高校をまたいでの登山研修会など我が校ではありませんでした。というか、当時から国体に山岳部門の競技がありましたが、私たちの部活では県高体連の山岳部門に所属していなかったというか、そういう競技に出場をしなかったので、合同研修なる合宿に参加しなかったのかもしれない。 とは言え、夏山合宿は関東と東北、上信越の県境の藪山縦走というのにこだわっていた山岳部で、当時としては大学のワンダーホーゲル部が目指すようなルートを高校生が夏合宿で歩いていました。今思うと、我らのような高校生坊主を簡単なエスケープルートもない山奥に引率してくださった顧問の先生方に敬服です。が、現役登山家や大学山岳部に所属しているOBがついてくれました。
しかし、冬山登山は部活動としても個人山行としても禁止でした。 高校生の技量と経験では冬山登山は無理でしょう。自己責任で行くこともできない、社会的にも認めがたいものがあると思います。 という中で、冬山の訓練を高校が学校活動としての部活で顧問という教員が引率しても、それを実施するのは、私としてはいかがなものかと思います。 そういう地域があったことにちょっと驚きを覚えております。
既にオフシーズンになっていたとは言え、スキー場という管理された場所での実施であったことに油断があったのかもしれませんが、私の経験は強風による圧力がたぶん直接原因の表層雪崩でありましたが、表層雪崩が起こるメカニズムは、暖かくなった後に雪の表面が霜ざらめという脆弱な雪の層に変化します。その上にさらに降った新雪が重たくなり、霜ざらめ層を崩壊(この場合はラッセルが原因だった可能性がある)させることで雪崩が発生します。春先に大雪が降った中で、ラッセル訓練など果たして高校山岳部として、そもそもトレーニングの必要性があったのか・・・。私としては、はなはだ疑問です。監督(この場合は顧問か)の言うがままの体育会系的な練習みたいだな。 これは責任賠償を学校、教員、所轄教育委員会等を相手に訴訟できる人災に思えてなりませんし、警察も刑事事件の立件可能性をもって捜査を始めているようですね。
かくゆう私たちも、雪のあるシーズンに人々を連れて雪山へも行きますので、気持ちを引き締める大きな教訓たる事故でもあります。
亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げると共に、登山のみならず、野外自然活動、青少年活動の健全なる発展にブレーキがかからんことも、安全管理についてキモに命じながらも祈る次第です。