昔、昔・・、北海道が蝦夷と呼ばれていた頃にも和人達は、ここ寿都・黒松内にも住んでいました。 和人たちは、アイヌが神様から授かりものとして捕り、大切な食料としていた海山の生き物達をたくさん獲り、お金に替えるようになりました。 そのため、いさかいも増え、人心が乱れ、争いも多くなっておりました。 それを聞いた弘法大使様は、たいそう心を痛め、仏の教えを広めようと船に乗って蝦夷地へ旅立ったのでした。
ところが、ベンケベツ(弁慶岬)の沖合で大嵐に合い船は難破し、弘法大使様は海に投げ出されてしまいました。 荒波に揉まれながらも、息も絶え絶えで寿都の浜に打ち上げられたのでした。 運良く、アイヌの娘に助けられ、アシ・ヨシに囲まれた朱太川下流のアイヌに身体を休めることができました。そして、アイヌの娘の2晩もの看病のすえ、すっかりと元気になった弘法大師様は、寿都の町へ教えを広めに行こうと身支度をはじめました。 ところが、あれま、大事なお数珠がないことに気づいたのでした。 はてや困ったとあたりを見回すと、お数珠にしては大きめですが、胡桃の実が集落の周りにはたくさん落ちていました。
「これでお数珠を作ろう。 しかし、穴を開けて紐を通さねばならぬ。 さてはて、この硬い胡桃にいかにして穴をあけようぞ?」と思案していると、動物達がやって来ました。
「オレがやってやろう」とまず、ヒグマが前に出ました。 ところがあまりに大きな口と牙で胡桃を噛むもんですから、胡桃はぐしゃりと潰れてしまいました。
次に、鹿が「アタシがやるわ」と申し出ました。 ところが、しかには前歯がありません。下の歯だけでは、胡桃はすべって噛むことすらできませんでした。
次に、クマゲラが「オイラの嘴でつついてやる」と飛んで来ました。 ところが、胡桃は胡桃はコロコロと転がって、連射突きができませんでした。
次に、エゾリスが「ぼくは、いつも食べているので簡単にできるよ」と、胡桃を前足で上手にはさんでカリカリと始めましたが、ふたつに割ってしまいました。
うさぎにたぬき、きつねや他の動物達も次々に名乗り出て、穴を開けることに挑戦しましたが、みんなできませんでした。
その中で、いつもはみんなから嫌われ者の赤ねずみが・・、おそるおそると前に出て、「私にもやらせてください」と言いました。 他の動物たちが、「お前のようなちびっ子ができるわけない」と大笑いをする中で、赤ねずみは、胡桃の真ん中をかじり始めました。 すると、なんということでしょう、見事な穴が開いたのです。 こうして、百八つの胡桃に穴を開け、アイヌの娘がシナノキの皮で上手に編んだ丈夫な紐を通して、大きな見事な数珠ができたのでした。
弘法大使様は大喜びで、赤ねずみの子孫繁栄をお祈りしたのでした。 それからです。 北海道に赤ねずみさんが増えたのは。
チャンチャン。
土ならししながら、百八個みつけました。 お数珠を作ろうっと!!