2013.5.19(日)雨
その違いは、調査をする対象の地に対する思い入れだろう。本書の後半に日記風の採訪記が書かれている。文章の所々に浅川氏の秋山郷に対する思いがにじみ出ている名文である。
師が採録された項目は具体的にマタギ、鉄砲、ヘビ、キツネ、吹雪、滅びた村などいう風にタイトルがつき、その中で実話や伝説など聞き取った事柄が書かれているのだが、この項目ごとに〔ノート〕として別項をもうけ浅川氏の考え方や具体的な歴史資料なども掲載されている。実はこのことが本書のレベルを上げている点だと思う。よく説話や伝説などをそのまま書いただけの本があるが、それらがいったい何を意味しているのかという考察がほしいし、科学的に解明できる事項ならそういうことも書いてほしいものである。
さて内容について気になる項目をいくつか紹介しよう。
22 洞穴
雨読「山の女」(2013.4.9参照)で秋山の方言リューについて書いたが、「秋山物語」でもリウのことが出てくる。本文には切明(きりあけ)の岩菅(いわすげ)という洞窟に関する言い伝えなんだが、ここにはリュウ、リウという言葉は登場せず、〔ノート〕の中でリウというのが洞窟のことだという説明がなされている。
「山の女」を読んだときにはリューというのは竜厳窟という洞穴を指す固有名詞としてのリューなのか、洞窟一般をさす普通名詞なのか解らなかったのだが、今回はじめて普通名詞として洞窟のことをさすのだと解った。自然にできるものもあるが、鉱山の跡だったりもする、という風に書かれている。つまり秋山ではリュー=洞窟なのだ。ところが、地名語源辞典、語源辞典、方言辞典などでリュー、リウなどそれに類するよみをする言葉を探しても、洞窟というのはどこにも出てこないのが不思議である。アイヌ語、ウチナーグチなど調べても出てこない。
唯一高知県の観光地龍河洞の語源として、「狭く細長い洞窟だから、龍洞とよばれていた云々」(日本地名ルーツ辞典)とある。洞窟の細長くうねっている様子は龍に例えてもおかしくはない。しかし秋山では深く長い洞窟だけでなく、ちょっとした、雨露をしのげるような岩窟もリューといっているのである。
全国には龍、竜のつく多くの山川、土地がある。崩れ→九頭竜のように信憑性のあるものもあるが、その多くが龍の語源を、龍信仰による瑞祥地名という風に片付けている。
秋山の方言は強烈だが、よく観察すると他の地方のものと一致する。リュー=洞窟という方言が、秋山郷にだけ存在するとは思えない。リューという全国的な古語が秋山郷に残って、他の地方では消滅してしまったという風に考えてみたいものである。つづく
【晴徨雨読】236日目(2007.5.19)香住~出石
この地方で行ってみたかったところに生野銀山がある。なぜ行かなかったかというと、近くだからいつでも行けるという気持ちがあったからだ。旅が終わって6年間未だに訪問できていない。
その代わりと言ってはなんだが、円山応挙の絵を見たり、出石の山城に登ったり、鋳物師町を訪ねたり、普通の旅では得られないものを訪ねている。
応挙の画は撮影禁止(香住、大乗寺)
有子山城祉から出石
鋳物師町を訪ねる
【今日のじょん】今野菊の真っ盛りである。野菊と言ってもいろいろあるようだが、学名で事細かに分類する事もなさそうだ。その咲き乱れている野菊の中に獣がのたうち回った跡がある。犬以上の大きさがありそうだが、いったい何だろう。
侵入路と退出路がよく分かる。