さあ、次なる危機に備えよう。
株式と債券の強気相場が6年目に突入するなか、災難に備える理由に不足はない。
米国株は金利先高観にかかわらず、2004年以来の高値水準に近づきつつある。中国の経済や金融市場は不安定になり、ブラジルには圧力がかかり、ギリシャ救済もうまくいかないかもしれない。米国のIT株ブームが崩壊する可能性もあり、投資家らは上場投資信託(ETF)が拡大する中で危機への備えを加速させている。
とはいえ、すべてを売り払って一目散に逃げる時ではない。米ボストンに拠点を置くGMOの創業者兼最高投資ストラテジストで、老練な投資家でもあるジェレミー・グランサム氏は、株式相場がバブルの領域に入るには、あと10%ほど上昇する必要があると話す。それでもグランサム氏は、1920年から世界各地で起こった28回の金融バブルを踏まえ、現在の株式相場は買われすぎだとみている。
株式相場がバブルの領域に迫っているかどうかの議論にかかわらず、十分に計画された投資ポートフォリオには一服の予防薬が必要になっている。ただ、現時点で明確な防御方法はほとんどない。金相場は下落を続けており、安全な投資先の期待リターンは取るに足らない。あらゆるリスクを抱えた債券相場は次第に株式と同じ方向に向かい、ポートフォリオのヘッジ手段としての機能が薄れている。
いくつかの予見できる潜在的な災厄、およびその備えになりそうな方法を以下に紹介しよう。
(1)再びIT株が相場の下げを主導
株式市場は年初から現在まで、IT株がけん引している。ただ、けん引役となっているのはほんの一握りの銘柄にすぎない。米コネチカット州グリニッジにあるジョーンズトレーディングの最高マーケットストラテジスト、マイク・オルーク氏によると、7日終値時点で、非金融株で構成するナスダック100種指数の上昇分の半分以上は、アマゾン・ドット・コムとグーグルという、たった2銘柄が稼いだものだ。
比較的少数の銘柄が相場をけん引している場合でも、市場全体が災難に見舞われる可能性はある。そうした状況は2000年初めに発生した。当時、野心に満ちたIT企業の株が急騰し、後にそれが崩壊した。現在は巨大IT企業1社か2社がみにくい決算を発表するだけで、相場全体を崩壊させる恐れがあるのだ。
警戒すべき別の理由もある。過去12カ月間、S&P総合500種株価指数の構成銘柄は株価収益率(PER)18倍ほどで取引されている。これは長期平均である15.7倍を上回る水準だ。オルーク氏は「PERがこの水準まで上昇したのは、バブルかリセッション(景気後退)の時期だけだ」とし、投資家は市場が荒れるのに備える必要があると指摘した。
防御策:大胆かつ慎重に
まず、ポートフォリオがIT銘柄、あるいはもちろんだが単一のセクターに過度に偏らないよう注意すべきだ。ただ、IT銘柄をショート、つまり売り持ちすることは危険かもしれない。これら銘柄が上昇を続け、ショート戦略が台無しになる可能性があるからだ。
(2)中国経済の悪化とギリシャ支援の失敗
中国株式相場は6月中旬から約31%下落し、過去8年以上で最悪のパフォーマンスを示している。混乱が続けば、巨額の債務を背負った経済を管理する中国政府の能力に疑問符が付きかねない。
一方、投資家はブラジル経済の弱体化を不安視しているほか、ギリシャ債務に関する合意が過去に2回行われた支援ほどの成功を収められないのではと懸念している。
防御策:ボラティリティーに乗れ
地政学的イベントが相場を揺るがしたとしても、ボラティリティーの低い銘柄に特化するファンドなら持ちこたえることができるだろう。しかし、米ニューヨークにあるトゥエンティファースト・セキュリティーズのロバート・ゴードン社長によると、最大の見返りは、相場のボラティリティーが急速に高まった状態での投資から得られるだろう。
こうした戦略は初心者向けではない。ゴードン氏は、ボラティリティー指数(VIX)の「コールオプション」を推奨する。コールオプションとは株式を特定の価格で買う権利を購入者に与える契約だ。オプションの動きは速くなることがあり、巨額の損失を出したり価値がゼロになったりすることもある。
(3)中央銀行の不手際
市場関係者は世界経済を押し上げるための中央銀行の努力を信頼している。米国では、近くリセッションが到来すると予想する人はほとんどいないが、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを開始すると見込まれている。
ただ、最近の商品相場の下落が世界経済減速の兆候になり得ると指摘する声もある。米国経済が減速するか、FRBがエコノミスト予想を上回るペースで利上げすれば、社債が打撃を受ける可能性が出てくる。
米オレゴン州ポートランドの投資マネジャーで著述家のウィリアム・バーンスタイン氏は、2008年の金融危機で最悪だった場面のひとつは、大部分が安全と考えていた高格付けの社債や地方債、インフレ連動債までもが売りたたかれたことだと話す。
防御策:長期債と(あえて)金
米ロサンゼルスに拠点を置く資産運用会社ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック最高経営責任者(CEO)を含む一部のマネジャーらは、FRBの利上げに伴い、投資家は長期国債から離れるのではなく、そこにシフトすべきだと主張する。
これらの債券はFRBの動きに反応するのではなく、期待インフレに反応する傾向が強い。現在のインフレは抑制されており、FRBが利上げすればさらなる逆風に直面するだろう。
米ロサンゼルスにあるチェビオット・バリュー・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ダレン・ポロック氏は「短期金利の上昇は長期金利の低下につながる可能性がある。リセッションの可能性の高まりが示唆されるからだ」と指摘。経済のぜい弱性が残されたままの状態でFRBが金利を引き上げるのは通常ではありえないと述べた。
金相場は2011年に1900ドル近くの高値を付けて以来、約40%下落している。ただ、市場をてこ入れするFRBや他の中央銀行の能力に対し市場参加者が信頼を失えば、金相場が活況を取り戻すと、ヘッジファンドマネジャーのボブ・ウィドマー氏は予想する。また、同氏は主要通貨の価値上昇に対する疑念が浮上すれば、金の魅力が高まる傾向があると指摘した。投資顧問らは、ポートフォリオに収入や配当を全く生み出さない金を数パーセント以上組み入れ続けないよう警告する。
(4)膨張する債券ETF
最近、カール・アイカーン氏らの著名投資家は、債券に特化したETF市場の拡大に潜む危険性を警告してきた。
現在の米金融市場では、債券ディーラーの役割が小さくなっているため、債券市場での恐怖が個人投資家によるETFやミューチュアルファンドの投げ売りにつながる可能性がある。こうしたシナリオでは、これら商品の買い手がほとんどいなくなりかねない。
米債券運用大手パシフィック・インベストメント・マネジメント(ピムコ)の創設に加わり、現在はジャナス・キャピタル・グループでファンドを運用しているビル・グロース氏は最近、「ミューチュアルファンド、ETF、インデックスファンドでさえ」相場下落にはぜい弱だと指摘。同氏によると、「(実際以上に流動性が存在するという)『流動性の幻想』とでも銘打つべき明確なリスクは、一度に全ての投資家が狭い出口を通り抜けられないということだ」という。
防御策:モーゲージと弱気戦略
エンゼル・オーク・キャピタル・アドバイザーズ(アトランタ)の最高投資責任者(CIO)、スリーニ・プラブ氏は、モーゲージ(不動産担保貸付債権)債など、ファンドやETFであまり見かけない債券にシフトすることを推奨する。住宅や商業用不動産などを担保にしたモーゲージ債への投資は、大部分の個人投資家にとってアクセスが制限されている。もはや貸し手はリスクの高い借り手を相手にしていないため、現在のモーゲージ市場は2008年の住宅ローン危機の時より安全になっている。
このほか、ジャンク債(非投資適格債、ハイイールド債)に走るなら、最も流動性の高いジャンク債ETFのプットオプションを買うことが利益につながると、弱気戦略に賭けるヘッジファンドは指摘している。
株式と債券の強気相場が6年目に突入するなか、災難に備える理由に不足はない。
米国株は金利先高観にかかわらず、2004年以来の高値水準に近づきつつある。中国の経済や金融市場は不安定になり、ブラジルには圧力がかかり、ギリシャ救済もうまくいかないかもしれない。米国のIT株ブームが崩壊する可能性もあり、投資家らは上場投資信託(ETF)が拡大する中で危機への備えを加速させている。
とはいえ、すべてを売り払って一目散に逃げる時ではない。米ボストンに拠点を置くGMOの創業者兼最高投資ストラテジストで、老練な投資家でもあるジェレミー・グランサム氏は、株式相場がバブルの領域に入るには、あと10%ほど上昇する必要があると話す。それでもグランサム氏は、1920年から世界各地で起こった28回の金融バブルを踏まえ、現在の株式相場は買われすぎだとみている。
株式相場がバブルの領域に迫っているかどうかの議論にかかわらず、十分に計画された投資ポートフォリオには一服の予防薬が必要になっている。ただ、現時点で明確な防御方法はほとんどない。金相場は下落を続けており、安全な投資先の期待リターンは取るに足らない。あらゆるリスクを抱えた債券相場は次第に株式と同じ方向に向かい、ポートフォリオのヘッジ手段としての機能が薄れている。
いくつかの予見できる潜在的な災厄、およびその備えになりそうな方法を以下に紹介しよう。
(1)再びIT株が相場の下げを主導
株式市場は年初から現在まで、IT株がけん引している。ただ、けん引役となっているのはほんの一握りの銘柄にすぎない。米コネチカット州グリニッジにあるジョーンズトレーディングの最高マーケットストラテジスト、マイク・オルーク氏によると、7日終値時点で、非金融株で構成するナスダック100種指数の上昇分の半分以上は、アマゾン・ドット・コムとグーグルという、たった2銘柄が稼いだものだ。
比較的少数の銘柄が相場をけん引している場合でも、市場全体が災難に見舞われる可能性はある。そうした状況は2000年初めに発生した。当時、野心に満ちたIT企業の株が急騰し、後にそれが崩壊した。現在は巨大IT企業1社か2社がみにくい決算を発表するだけで、相場全体を崩壊させる恐れがあるのだ。
警戒すべき別の理由もある。過去12カ月間、S&P総合500種株価指数の構成銘柄は株価収益率(PER)18倍ほどで取引されている。これは長期平均である15.7倍を上回る水準だ。オルーク氏は「PERがこの水準まで上昇したのは、バブルかリセッション(景気後退)の時期だけだ」とし、投資家は市場が荒れるのに備える必要があると指摘した。
防御策:大胆かつ慎重に
まず、ポートフォリオがIT銘柄、あるいはもちろんだが単一のセクターに過度に偏らないよう注意すべきだ。ただ、IT銘柄をショート、つまり売り持ちすることは危険かもしれない。これら銘柄が上昇を続け、ショート戦略が台無しになる可能性があるからだ。
(2)中国経済の悪化とギリシャ支援の失敗
中国株式相場は6月中旬から約31%下落し、過去8年以上で最悪のパフォーマンスを示している。混乱が続けば、巨額の債務を背負った経済を管理する中国政府の能力に疑問符が付きかねない。
一方、投資家はブラジル経済の弱体化を不安視しているほか、ギリシャ債務に関する合意が過去に2回行われた支援ほどの成功を収められないのではと懸念している。
防御策:ボラティリティーに乗れ
地政学的イベントが相場を揺るがしたとしても、ボラティリティーの低い銘柄に特化するファンドなら持ちこたえることができるだろう。しかし、米ニューヨークにあるトゥエンティファースト・セキュリティーズのロバート・ゴードン社長によると、最大の見返りは、相場のボラティリティーが急速に高まった状態での投資から得られるだろう。
こうした戦略は初心者向けではない。ゴードン氏は、ボラティリティー指数(VIX)の「コールオプション」を推奨する。コールオプションとは株式を特定の価格で買う権利を購入者に与える契約だ。オプションの動きは速くなることがあり、巨額の損失を出したり価値がゼロになったりすることもある。
(3)中央銀行の不手際
市場関係者は世界経済を押し上げるための中央銀行の努力を信頼している。米国では、近くリセッションが到来すると予想する人はほとんどいないが、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを開始すると見込まれている。
ただ、最近の商品相場の下落が世界経済減速の兆候になり得ると指摘する声もある。米国経済が減速するか、FRBがエコノミスト予想を上回るペースで利上げすれば、社債が打撃を受ける可能性が出てくる。
米オレゴン州ポートランドの投資マネジャーで著述家のウィリアム・バーンスタイン氏は、2008年の金融危機で最悪だった場面のひとつは、大部分が安全と考えていた高格付けの社債や地方債、インフレ連動債までもが売りたたかれたことだと話す。
防御策:長期債と(あえて)金
米ロサンゼルスに拠点を置く資産運用会社ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック最高経営責任者(CEO)を含む一部のマネジャーらは、FRBの利上げに伴い、投資家は長期国債から離れるのではなく、そこにシフトすべきだと主張する。
これらの債券はFRBの動きに反応するのではなく、期待インフレに反応する傾向が強い。現在のインフレは抑制されており、FRBが利上げすればさらなる逆風に直面するだろう。
米ロサンゼルスにあるチェビオット・バリュー・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ダレン・ポロック氏は「短期金利の上昇は長期金利の低下につながる可能性がある。リセッションの可能性の高まりが示唆されるからだ」と指摘。経済のぜい弱性が残されたままの状態でFRBが金利を引き上げるのは通常ではありえないと述べた。
金相場は2011年に1900ドル近くの高値を付けて以来、約40%下落している。ただ、市場をてこ入れするFRBや他の中央銀行の能力に対し市場参加者が信頼を失えば、金相場が活況を取り戻すと、ヘッジファンドマネジャーのボブ・ウィドマー氏は予想する。また、同氏は主要通貨の価値上昇に対する疑念が浮上すれば、金の魅力が高まる傾向があると指摘した。投資顧問らは、ポートフォリオに収入や配当を全く生み出さない金を数パーセント以上組み入れ続けないよう警告する。
(4)膨張する債券ETF
最近、カール・アイカーン氏らの著名投資家は、債券に特化したETF市場の拡大に潜む危険性を警告してきた。
現在の米金融市場では、債券ディーラーの役割が小さくなっているため、債券市場での恐怖が個人投資家によるETFやミューチュアルファンドの投げ売りにつながる可能性がある。こうしたシナリオでは、これら商品の買い手がほとんどいなくなりかねない。
米債券運用大手パシフィック・インベストメント・マネジメント(ピムコ)の創設に加わり、現在はジャナス・キャピタル・グループでファンドを運用しているビル・グロース氏は最近、「ミューチュアルファンド、ETF、インデックスファンドでさえ」相場下落にはぜい弱だと指摘。同氏によると、「(実際以上に流動性が存在するという)『流動性の幻想』とでも銘打つべき明確なリスクは、一度に全ての投資家が狭い出口を通り抜けられないということだ」という。
防御策:モーゲージと弱気戦略
エンゼル・オーク・キャピタル・アドバイザーズ(アトランタ)の最高投資責任者(CIO)、スリーニ・プラブ氏は、モーゲージ(不動産担保貸付債権)債など、ファンドやETFであまり見かけない債券にシフトすることを推奨する。住宅や商業用不動産などを担保にしたモーゲージ債への投資は、大部分の個人投資家にとってアクセスが制限されている。もはや貸し手はリスクの高い借り手を相手にしていないため、現在のモーゲージ市場は2008年の住宅ローン危機の時より安全になっている。
このほか、ジャンク債(非投資適格債、ハイイールド債)に走るなら、最も流動性の高いジャンク債ETFのプットオプションを買うことが利益につながると、弱気戦略に賭けるヘッジファンドは指摘している。