その5はこちら。
(Shall We ダンス?)
BW:大好きな映画だ。(熱っぽく)すばらしい映画。エレガントで、とてもよかった……あれは他の映画のまったく正反対をいっている。妻が夫に不審の念を抱く、探偵を雇い、自分でも夫のあとをつけ、夫がタンゴのレッスンを受けていることを知る。タンゴのレッスンだ!まるでイタリア映画のよう。ちょうどそれは……すばらしくおかしい。それに、主人公が男としてしだいに美しくなっていくそのプロセスがいい。ダンスもすごくうまかったじゃないか?潔癖なまでに清潔、でももちろんいい意味でね。ひとつのすばらしいアイデアを種にして花開いた佳品だ。
……ワイルダーの映画のことは、世界のどこよりも日本で評価されているという説もある。あれこそがハリウッド。ウエルメイドきわまりない映画。こんな観点で。しかし本人は否定するが、移民であることにより、アメリカ人よりもアメリカについてシニカルであったり、逆に過剰にアメリカナイズされている、といった面はやはりあったろう。コピーは本物よりも過剰になる特質はあるわけだから。
徹底して練り上げられた脚本を味わうために「麗しのサブリナ」と「サンセット大通り」をビデオ屋から借りて観た。
彼がシナリオの作法において語るように、もののみごとに第一幕で積み上げたものを終幕で精算するその手法に恐れ入った。サブリナで言えば、彼女がパリでお料理の勉強をするシーンだけで時の経過をあらわし、後に出てくる卵を割るシーンとつながり、そしてハンフリー・ボガートの社長室でスフレを作ろうとする哀しい場面を際だたせる。ため息が出るくらいうまい。
そしてきらめく名セリフの数々!「お熱いのがお好き」の有名なラストのセリフだけでなく、いったいどれだけの才能があればこんなセリフを書くことができるのか、と気が遠くなるくらいだ。ロックライターだったキャメロン・クロウや、脚本家だった三谷幸喜がワイルダーを尊敬してやまない気持ちがよくわかる。
そしてこれらを味わうには、ビデオで再見する他に、和田誠の「お楽しみはこれからだ」が最適。この「ワイルダーならどうする?」も、ブルーを基調にした彼の装幀だけで税別4,700円の価値はありました。名著。死ぬまでに、あと何度読み返すことができるだろう。