【ビスコ】
唐:いろいろと日常に軍事関係のものって入りこんでますよね。トレンチコートなんてモロにトレンチ(塹壕)用コートですしね。
神:ビスケットなどというのも、もとをただせば軍用食じゃな。
唐:あ、そうなんですか。
神:もともと、ビスケットのビスというのは二度焼きという意味で、一度火を通した焼き菓子に、もう一度火を通して水分をとばし、持ちがいいようにしたものじゃ。実際に商品としてのビスケットの製造販売を開始したのは明治時代、風月堂の米津松造という人物じゃが、ここのビスケットは日清戦争時、軍事食として大量に日本軍に買い入れられ、今の風月堂の基礎を築いた。
唐:そして、平和時になると砂糖などが加えられて甘いお菓子になり、子ども向けのおやつになったというわけなんですね。
神:いや、完全におやつ化したわけでもないと思うぞ。例えばビスコなどは、子どもの成長に必要な栄養素を含んだ栄養菓子として昭和8年に発売されたが、これも、裏に軍の意を受けた、国民の体位向上をはかる目的があったのではないかと言われておる。
唐:昭和初期どころか、私の子ども時代も体にいいカルシウムなどがたくさん含まれているというので、幼稚園のおやつなんかはいつもビスコでしたよ。あのころ再軍備論がやかましかったけど、まさかそのためじゃなかっただろうな。
神:ビスケットの栄養食料としての欠点は、熱を2度も加えるので、熱に弱い栄養素が飛んでしまうことじゃが、ビスコを発売した江崎グリコは、栄養を含んだ酵母をクリームの中に入れ、ビスケットにはさむことでこの問題を解決したのじゃ。
唐:あ、そうなんですか。私、クリームがダメだったもんで、真ん中にサンドイッチされているクリームは捨てて、ビスケットだけ食べてました。
神:それではなんにもならん。もともと、ビスコのコはコウボのコなんじゃぞ。
……ビスコって昭和8年からあったのか!確かにわたしが小学校に入る前からあったけど。死んだ兄と争奪戦を演じた憶えもあるから、かなり好きだったはずだが、こんな歴史があったとはね。そしてビスコは漢字で“美寿菓”と書くので、縁起をかつぐのが好きな中国・台湾では結婚式や新築祝いなどの進物にかかせないものとなったらしい。果たせなかった中国侵略を、軍用食の出自をもつビスコだけは達成したというわけだ。
……裏モノきわまりない醍醐味を、少しは感じてもらえましたか?次回は宗教、オシッコあたりを。