事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

ホリ・ヒロシ

2007-12-28 | ドッペルゲンガー

Mt1026_02 十数年前、たまやカブキ・ロックス、Beginなどを輩出した(最高だったのはリトル・クリーチャーズというバンド)『イカす!バンド天国』略して“イカ天”という深夜番組を眺めていたとき、隣で見ていた妻がいきなりのたうち回って笑い始めた。
「どしたの?」
「み、見て(笑)……あのベース」
そこには、サングラスをかけた私がいたのだ。

 世の中には、三人のうり二つの人間がいるらしい。あるいは、分身であるドッペルゲンガーと出会うと死んでしまうという言い伝えもある。どうやらその素人ベーシストを見たせいで私が死ぬことはなかったようだが、そっくりさんという存在は自身を映す鏡でもあるわけだから、やはり気にはなる。

 結婚前、合コンで知り合った女性から結婚してすぐに出会ったら「去年会ったときは奥田瑛二だったのに、どうして今年会ったときはこぶ平になってるの?」と呆れられた。ま、奥田うんぬんは思い違いとしても、ルックスは日々変わっているんだから、そっくりさんも変遷するのは自然なことじゃないか。
 
そっくりさんとはちょっと違うけれど、同姓同名の人間にもちょっとしたシンパシーは感じる。近頃「魔界転生」を見た二人の読者から「ホリ・ヒロシって人がスタッフにっ!」とメールが。「バイトしてるの?」とか。
罰当たりな話である。ホリ・ヒロシと言えば、その読者のメルマガによれば…

Hori_30thhori ホリ・ヒロシ
1958年神奈川県生まれ。人形師・着物・舞台衣装デザイナーとして活躍。91年に東京都民文化栄誉賞を受賞し、海外の様々な演劇祭に参加。98年には映画『源氏物語より 浮舟』で、登場人物全てを人形制作、衣装デザインし評価を得た。
このメ-ルを読んでいる一人と同姓同名のコチラの方が「魔界転生」の衣装を担当されたそうです。平山秀幸監督はじめ主要3人物と並んで紹介されてる取り扱いの大きさ。いや、びっくり。世界的な人形師だそうです。

みんな知らんかったんかい。わたしは同姓同名であるせいで昔から四谷シモンと並んで気になる人形師だったんだけどなあ。でもみなさんも、一度ヤフーあたりで自分の名前を検索してみると面白いんじゃないかな。いますよ同名の人間にはいろいろと変わったヤツが……

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「魔術師(イリュージョニスト)」ジェフリー・ディーヴァー著 文藝春秋刊

2007-12-28 | ミステリ

Thevanishedman 憂鬱な夜を吹き飛ばすための一冊。しかしこの本はちょっと反則。ディーヴァーといえば映画的手法を駆使して(まあ、スティーブン・キング以降はみんなそうなんだけど)読者を一瞬たりとも飽きさせない剛腕作家。あまりに書き直すものだから出版社に嫌われている粘着質な男でもある。「魔術師」は、代表作「ボーン・コレクター」(文春文庫)に始まる四肢が麻痺した究極の安楽椅子探偵リンカーン・ライムシリーズの最新作。とにかくどんでん返しに次ぐどんでん返し。神のごとき(強引、とも言う)名推理が光る。

しかしよくよく考えてみるとこの作品、ライムという名探偵が色々と推理して犯人の裏をかき、犯人はライムのその裏をかく丁々発止が魅力なんだけど、“名探偵が余計なことをしなかったらもっと簡単に解決できたんじゃないか?”と、ミステリの読者として「それは言わない約束でしょ」という感想も。

ディーヴァーを基準にすると他の作家の作品になかなか手が出せないという副作用もある。覚醒剤か。わたしはライムシリーズを読んでいるときにあまりの面白さにやめられず、業者との打合せに遅刻したことさえある。事務職員失格。社会人失格。

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「ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎著 新潮社刊

2007-12-28 | ミステリ

Goldenslumber 「『ゴールデン・スランバー』をさ、さっきおまえが寝てる間、ずっと口ずさんでいたんだ」
「子守唄だからか?」直訳すれば、黄金のまどろみ、となるのかもしれないが、歌詞の内容はほとんど子守唄だった。ポール・マッカートニーの搾り出す声で、高らかに歌われるその曲は、不思議な迫力に満ちている。
「出だし、覚えてるか?」と森田森吾は言った後で、冒頭部分を口ずさんだ。
Once there was a way to get back homeward
「昔は故郷へ続く道があった、そういう意味合いだっけ?」
「学生の頃、おまえたちと遊んでいた時のことを反射的に、思い出したよ」
「学生時代?」
「帰るべき故郷、って言われるとさ、思い浮かぶのは、あの時の俺たちなんだよ」

……伊坂幸太郎お得意の、仙台の物語。青春を仙台で謳歌しながら、しかしあの頃にはもう戻れないという諦観まで、いつもの伊坂だ。ケネディ暗殺事件をモチーフにしているだけあって、「魔王」以上に政治的な小説だともいえるかもしれない。

B87ebec5  仙台で首相の凱旋パレードが行われているちょうどそのとき、旧友に主人公は呼び出される。冒頭のやりとりがあった直後、旧友は「お前は陥れられている。逃げろ、オズワルドにされるぞ」と告げる。実は国家的な陰謀があったと噂されるケネディ暗殺が、オズワルドの単独犯行だと強引に結論づけられ、オズワルドや事件関係者の多くが後に殺され、あるいは不審死していることを指している。事実、旧友は直後に射殺される。

 国家という化け物が総掛かりで主人公を追いつめる。彼にアドバンテージがあるとすれば、宅配便の経験があることから仙台の地理に明るいことと、人柄の良さ(笑)だけなのだ。この追跡劇は読ませる。別れた恋人とのかかわりで、青春の残像(この小説、英語題名は“A MEMORY”)をお互いが抱いていることが窮地を脱する伏線になっているあたり、うまい。

 登場人物がまた魅力的。特に主人公の父親は泣かせる。息子がこんな事件にまきこまれたとき、父親としてここまで毅然としていられるか、と自問してしまった。

 時制を行ったり来たりさせて読者を幻惑させるいつもの手口も、職人芸と言えるレベルまで達している。張った伏線をすべて刈り取り、ちょっとびっくりするぐらい気持ちのいいラストにつなげているのだ。読みおえたら絶対に冒頭を読み返したくなるはず(わたしはやりました)。至福の読書体験。ぜひ。

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