彼女は女性マネージャーと二人であらわれた。迎えるこちらはわたしと書記長、前期と後期の女性部長の四人。
接待のコンセプトは、いわゆるオヤジ系のご接待にはしたくないということ。日本酒を注ぎつ注がれつ、ちょっとしたタニマチ(笑)気分を味わうなどということだけはしたくなかったのだ。したがって日本酒なし、名刺交換なし、写真撮影なし。フランクな食事にしたいということだ。
こいつは当たりだったみたい。芸能人、とか業界人ということばから遠いところにいる彼女たちに、いかにもリラックスした感じは好感触だった。
新谷さんは妻と同郷の函館出身だったこともあり、
「奥さんはどこの生まれ?」と予想どおりの質問をうけ、きちんと予習して前日に妻に初めて(^o^)きいていたので
「舟見町だそうです。」
「あ、知ってる。函館山の方ね。わたしは末広町。」
こんなジャブから入り、島根出身のマネージャーさんは
「わたし今まで山形県は太平洋側にあるもんだと思ってました」という気の遠くなる発言にみな笑い(列車で眺めていた夕陽を不思議に思わなかったのだろうか)、こっちは「島根と鳥取の位置関係がよくわかんないんですよね」と返す。
御馳走は酒田名物寒鱈づくし。内臓いれまくりのどんがら汁や精巣を生で食べるダダミ。全員が日本海側の生まれだし、「これ(ダダミ)は北海道じゃあタツっていうんですよ」というローカルネタでも盛り上がる。だいたいお酒を飲まないはずだったのに「あーのど乾いちゃった」とビール飲みだすし。
マジな話も。
「わたし、歌を歌うのがすごくイヤになるときがあるんです」
戦場で傷ついた人々や阪神大震災の現場などに行くと、ほんとうにせっぱ詰まった場面での歌の無力さを思い知らされるのだという。
「でも、わたしら組合の人間からすれば、歌、っていうメソッドを持っていることの羨ましさはありますよ。」これは正直な話。
「失礼なことを言っちゃダメってこのNくんから言われているんですけど、ラブ&ピースっていうお題目には、やっぱりある種の胡散臭さがあるじゃないですか」
論戦を挑んでどうしようというのだ。
でも、彼女はその胡散臭さにすら意識的なのだった。この生き方はつらいだろう。かなりつらいはずだ。新婚の彼女の旦那だってここまで意識的な連れ合いはきついはず。「だからたまに身をよじって泣いたりすることになるの。」そうだろうなあ。
なんか、ものすごく充実した気分で彼女たちをタクシーに乗せる。接待大成功。ヌードの話もちゃんと我慢したし。伊豆菊の仲居さんに
「今の、『フランシーヌの場合』歌ってた人だって気づいた?」ときくと
「なんでもっと早く教えてくれないんですか!」
と怒られてしまった。フランシーヌおそるべし。