もう、他の映画とレベルが違ってしまっている。枯淡の境地に達してしまったかのようなイーストウッドの新作は、しかし激しく心をゆさぶる。文句なく06年ベストワン。
硫黄島に掲げられた星条旗は、二重の意味で米国民のイメージを裏切っている。
・旗自体が代替だったこと
・勝利の旗印として掲げられたのではなく、その後も日本軍との間で激戦が続けられ、膨大な数の死傷者が出たこと。
……これはけっこう有名な事実。だから一種の手あかのついたネタでイーストウッドは勝負したわけだ。しかし「ミリオンダラー・ベイビー」でも組んだポール・ハギス(こいつは「007/カジノ・ロワイヤル」も書いてます。つまり正月に自作の映画が二本も公開される!)の絶妙の脚本と、実際の戦闘を記録した写真(エンドタイトルに出ます)をもとに徹底して戦場を再現した美術、そして“どんな兵士にも等しく死が訪れる”サプライズな演出で観客を圧倒する。
財政が苦しくなったために、たとえフェイクであっても、難攻不落だった硫黄島に星条旗を掲げる有名な写真のメンバーを政府は本国へ呼び寄せ、戦時債権のセールスに全米をまわらせる。熱狂する国民。イーストウッドは退役兵士のこんな告白をオープニングに仕込んでいる。
「戦場を知らない者ほど、戦争を語りたがる」
つまり、実際の戦闘とは無縁に近い存在だった星条旗に熱狂する国民を“真の戦争を知らないものたち”にシンボライズしているわけだ。そしてこうも言わせている。
「戦争に完全な善はなく、完全な悪もない」
これを2006年に公開される映画で言わせる以上、誰に向けて放たれたメッセージかは自ずから明らかだ。
旗を掲げた6人のうち、3人は死に、3人は生き残る。そして生き残った3人は
・一人は英雄であることに(しかも偽物の)耐えきれず、自滅する。
・一人は英雄であることを利用しようとするが、失敗する。
・そして最後の一人は、英雄であったことに徹底的に背を向け、寡黙な余生を送る。
……その、最後の一人が死を予感したとき“Where is he?”と何度も叫ぶ。その“He”が誰であったか、そしてなぜ彼を呼んだのかがラストで明かされ、んもう涙が止まらなくなる。タイトルに込められた意味は重い(“旗”も“父”も複数形です)。大傑作。ぜひ。