誤読も佳境に入ってきた。前回の「気くばりのすすめ」篇はこちら。
さあ、ベストセラーが良書でなくてもよい、それどころか、はっきり言って良書であることが邪魔な世の中なのではないか、そう感じさせる究極の一冊の登場だ。どうぞご堪能を。
「愛される理由」 二谷友里恵 平成2年
豊崎 全篇これムカつく本ですね。本を開いて二ページ目、<日本では学校にも車で通い>ときたもんです。
岡野 しかも、駐禁の女王。で、どこに駐車しているかといえば、なんと大学正門並びにある接骨院の急患用の路上駐車帯。この人の車があったら、急患大変困ります。
豊崎 そのことを別に悪いこととも思ってない。常識なさすぎ。高速道路で時速180㌔出すし。こんなヤツ、交通刑務所にでも入れてやれ。
岡野 決めつけも激しい。ドイツに行くと、高速道路の料金所で長い列ができていた。それもこれもみんな車を止めるたびにエンジンも止めるからだ、と。で、友里恵は怒ってるんだけど、これってノンアイドリングを実践してるってことだろ。80年代からすでに環境を考えた運転をしてたドイツ人は褒められこそすれ、けなされる謂われはないよ。
豊崎 偏見もはなはだしいですよね。そんなこんなですっかりドイツが嫌いになったもんだから、ニューヨークに戻ってきてホッとすんのね。そこで一言。<まわりの人々は誰も、あのフガフガ鼻にかけたような不快な発音で喋ったりしていない。巨大なソーセージもここにはない>。ホント、失礼でヤな女。こいつのどこに“愛される理由”があるんだっつーの!
……いやーすごいですね。かえって読んでみようと思わせますもの。いったい郷ひろみの“自分”というものはどこにあったのだろう。そういえば昔つとめていた学校で、職員が生徒におすすめの本を紹介する企画があり、何を血迷ったか体育主任が「愛される理由」を挙げ「いろいろと考えさせてくれるので……」って確かに考えさせてはくれるけどさあ(笑)。ちなみにそのときわたしがお薦めした文章を思い出せるだけ再録。
「ジャズ・カントリー」 ナット・ヘントフ著 晶文社 講談社文庫
『きっとこんな場所でこんな人間が紹介する本なのだから、お説教くさい本だと思うでしょう。大当たりです。全篇お説教の嵐。ミュージシャンをめざすニューヨークの白人少年が、(たくさんのお説教をうけながら)旅を続ける。それだけの話。わたしは夢見る十代の頃に読んでめちゃめちゃに感動してしまいました。若かったなあ』
こんないい本の100倍は売れちゃったわけだな二谷。あーあ。
次回は「マディソン郡の橋」と「ハリー・ポッター」