いったいこれは何だ?とびっくり。どういう文脈でこんな作品が飛び出て来たんだろう。とにかくすごい小説なの。
タイトルそのまんまの、古事記とは誰が書いたのかをめぐる物語。
「稗田阿礼(ひえだのあれ)だろ?」
とクイズの解答者みたいな地点からはるかに離れて、蘇我入鹿の……言っていいのかな、いいんだよなタイトルになっているくらいだから……娘がなぜ、どのように古事記(ふることぶみ)をまとめたのか。むちゃくちゃに面白く描いてある。
大化の改新につながる乙巳(いっし)の変からスタート。中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我入鹿を誅殺。ここから、大王(おおきみ)を中心とした中央集権的体制が構築され、しかしその後の壬申の乱で……という歴史が縦糸。この、天皇制成立の過程に、ある盲目の女性がからみ、兄との禁断の恋が組み込まれる。
ここに、古事記のエピソードがからんでくるのだ。ヤマタノオロチとか、因幡の白ウサギとか。挿入される部分はページの色まで変えられている。
わたしは日本史をまともに学習したことがないので(マジで、未履修です)、この時代のことは山岸凉子の「日出処天子」でしか把握していない(笑)。教室の後ろに貼られていた歴史年表に載っていた事件の数々に、こんな背景があったのかとお勉強。
殺人によって始まった大化の改新が、なぜ年表であれほど大きく扱われていたのか。つまりは事実上の天皇制開始ってことと理解していいですか。
最大の謎は、これだけの作品を書き上げた周防柳という作家だ。これまでどのような活動をしてきた人なのだろう。なんか、彼女(女性なんですよね?)の存在もまたよくわからないでいる。そのことも含めて、むやみに面白い本でした。ぜひぜひ。