タイトルから想像できるように、これは“静かな侵略”というジャンルの作品。そんなジャンル聞いたことがないって?いまわたしが勝手につくったのですから無理はありません。
「宇宙戦争」や「インデペンデンス・デイ」に代表される、円盤が飛んできて破壊のかぎりをつくすドンパチなタイプとは対極の、ある日突然、隣人が(あるいは家族が)宇宙人に入れ替わっている恐怖を描く……
ドン・シーゲルの「ボディ・スナッチャー」およびそのリメイクが代表。ちなみに、わたしはフィリップ・カウフマンのバージョンが大好き。ヒロインのブルック・アダムス(名探偵モンクのトニー・シャローブの奥さん)が目玉をクルクルまわすシーンだけでももう一度見たい。
このジャンルはSFというよりも心理劇の色彩が強いので(夫が、妻が、きのうとは別人になっていると想像すれば怖いでしょう?)、画的には地味でも映画の題材として強い。
もっとも、「散歩する侵略者」は、近所の人にきちんとあいさつする普通の女子高生が、(直接は描かれないが)いきなり家族を惨殺するシーンからスタート。現場へ事件記者(長谷川博己)が訪れると、不思議な少年があらわれて……
もうひとつのパートは、夫である松田龍平をやけに邪険にあつかう妻(長澤まさみ)のお話。夫は、まるで新生児のようにすべてを学びたがり、妻をいらだたせる。
ネタバレ覚悟で紹介すれば、松田龍平は妻を裏切って不貞をはたらいていたのであり(死語の連発)、その夫が“生まれ変わった”ことによるラブストーリーでもある。乱暴なくくりですが。長谷川博己が早口でまくしたてるので、ゴジラが出ない「シン・ゴジラ」にも見えます(あの映画は他の作家に「これやっていいんだ!?」と思わせたようです)。
黒澤明よりも現在では“世界のクロサワ”になった黒沢清作品だけあって、役者はみんな出演したがるのだろう。びっくりさせたいので明かしませんが、ビッグネームがいっぱい登場します。そして彼らの味もあいまって、なんか、いい感じの“変な映画”になっています。「舟を編む」のときに、松田龍平は変な歩き方を発明したなあと思ったら、この作品でも変でした。いつもああなのか!