もう、近ごろ夢中で青山文平作品を読みまくっております。去年の朝井まかて以上のペース。
あおやま・ぶんぺい 1948年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2011年、『白樫の樹の下で』で第18回松本清張賞を受賞し、作家デビュー。2015年、『鬼はもとより』で第17回大藪春彦賞受賞。2016年、『つまをめとらば』で第154回直木賞受賞。他の著書に『伊賀の残光』『約定』『かけおちる』等がある。
新潮社HPより
始まりは、この作品だった。
「半席」 新潮社
どうして読んだこともない作家の小説を手に取ったかというと、「このミステリーがすごい!」にランクインしていて、どう考えても他の作品と印象が違っていて、逆にそそられたからだ。
本格ミステリが強いこのミスのなかで、まるっきりの時代小説(少なくとも、そう売られている)がなぜミステリとしてランクインしたのか、知りたいじゃないですか。
読んでびっくり。めちゃめちゃに面白かったのである。そして、確かにミステリとして成立しているのだ。
まず、主人公の設定が変わっている。御家人(知行が1万石未満で、将軍にお目見えできない直参。お目見えできる身分は旗本)だった父親は徒目付として旗本に昇進したが、そのままだと子どもに身分を継承できない。これが、半席。旗本の身分を確立するために、主人公は必死で出世しなければない。彼はそのために地道に働きつづけるが、上司から誘われて奇妙な事件の“動機”を探るはめになる。
彼は本来、このような寄り道をしてはいけない状態。しかし一種の名探偵として事件がなぜ起きたのかだけを探り続ける。断罪することなく、真相をひたすら求めるだけ。
主人公の片岡直人は徒目付。要するに内部監察が主な仕事。職掌はやたらに広いので現代の総務課の役割が近いかも。彼に、悪ぅい(つまり味のある)上司は不可解な事件を探れと命ずる。いや、命じはしないんだな。気の利いた店で気の利いた料理を食べさせながら誘いをかける。
直人は抗う。そんなことをしている暇はないのだと。だが、彼の本性を知り抜いている上司は誘い出すことに常に成功する。
たとえばこんな事件。
定年のない旗本とはいえ、八十を越えてからも隠居しない表台所頭。この義父が隠居しないために子はいつまでも役職に就けない。そんな義父が釣りの最中になぜかイカダの上を全力で走り始め、海中に没する。疑いは近くにいた子に向かうが……
面白そうでしょ。事件を解明するたびに片岡は人の闇や温かさにふれて成長していく。そんな片岡ははたして半席から抜け出せるのか。読み終えて、おいおいなんでこれまでこの作家の作品を読まなかったんだと激しく後悔。「励み場」につづく。