戦争映画といっても、決して血湧き肉躍る題材ではない。なにしろ連合軍の撤退作戦を描いているのだから。真珠湾攻撃を描いた「トラ・トラ・トラ!」や、超オールスターキャストを用意してマーケット・ガーデン作戦をネタにした「遠すぎた橋」の興行的惨敗を考えれば、敗戦を描くのはとても勇気が要る。
そこを、クリストファー・ノーランはチカラでねじふせた。三つのストーリーをまず用意し、
・1週間(ダンケルクの海岸で英国兵を船で撤退させる顛末)
・1日(イギリスの民間人がみずからの船で救出に向かうお話)
・1時間(英国空軍のスピットファイアとドイツのメッサーシュミットの空中戦)
という三つの時間をより合わせ、それぞれのクライマックスを微妙に相関させている。
この、まるでアクロバットのような脚本を、CGをほとんど使わず(実際にドッグファイトをやらせている!)、セリフをそぎ落とし(日本語吹替版ってあるのかな)、端役にいたるまでみごとな面構えの役者を起用して傑作に仕立て上げている。
ノーランにしては上映時間も短く、「ダークナイト」のように三本分のアイデアをつめこんだ高カロリー作品ではないけれど、英国人船乗りの誇り高い行動(「わたしたちの世代が始めた戦争で子どもたちが死んでいくのはがまんできない」というマーク・ライランスの矜持に感動)、ドイツ軍に追いつめられ、自分さえ生き残ればいいと卑怯なふるまいをしてしまった少年兵が、故国に帰り、老人から毛布を受け取り「顔も見ないで毛布を渡してくれた」と涙ぐむエピソードなど、しみじみとさせてくれる。
敗軍の兵士たちを英国人は熱狂して迎える。しかし主役である少年の顔は晴れないままだ。このあたりの苦みもまた、しみじみといい。