レバノン……うーんあまり考えたくない国かな。わたしは新聞の国際欄を眺めても、あのあたりのことはよくわからないとギブアップしていたものでした。
しかしもちろんあそこの政治状況に日本人が無縁でいられるはずもなく、岡本公三などの日本赤軍が潜伏していたのがレバノンだったことからも、“政治の季節”がまだ吹き荒れている国だ。近ごろは、カルロス・ゴーンの出身地として有名だけれども。
この映画は、わたしが初めて見るレバノン映画。よくあるご近所トラブルが、国を二分する大騒動につながる経緯をみごとに描いている。
首都ベイルート。違法建築のバルコニーから水が落ちる。近くで工事を指揮していた現場監督は排水管を始末しろと迫る。はねつける住人。なじる現場監督……問題は、住人が反パレスチナを標榜する政党の支持者でキリスト教徒、現場監督がパレスチナ難民だったことだ。
「謝罪しろ」と迫る住人に、現場監督はどうしても謝罪することができない。そこへ住人が投げかけた言葉がこの映画のキーだ。
「シャロンに抹殺されればよかったのに」
現場監督はそれを聞いて激昂し、住人を殴り、負傷させてしまう。
ここ重要です。シャロンというのはパレスチナに対して強硬だったイスラエルの首相、アリエル・シャロンのこと。かろうじてこのあたりは知っていたので助かった。やっぱり新聞は読んでおくものです。
裁判が進むにつれ、原告(住人)にも被告(現場監督)にも隠された過去があることがわかってくる。裁判劇としても周到。
しかも、野卑な頑固者だった住人と、意地っ張りの現場監督が、次第に崇高に見えてくるあたりがすばらしい。現場監督を演じたカメル・エル・バシャ(橋爪功にそっくり!)はこの映画でヴェネチア映画祭の最優秀男優賞を受賞。納得。
原告と被告の弁護士たちの意外な関係や、その判決など、考え抜かれた映画になっている。見てよかった。おこがましいけれども、レバノンを少し理解できた気がします。外国人材(気持ち悪い言葉だ)とやらでごたついているどっかの国とは根性が違う。