わたしの去年のベストミステリは陳浩基の「13・67」(このタイトルはよく考えられている)だった。印象として、いきなり中華ミステリ登場って感じ。Enter the Chinese Mysteryですか。
ミステリというジャンルは、文化的成熟、余裕のようなものがないと成立しない。その意味で、新聞ではわからない成熟を習近平治世下の中国は抱えることになったのだろうか。まあ、陳浩基は香港の人なので微妙だけれど。そして今年の中華代表はこの「元年春之祭」のようだ。作者の陸秋槎は中国人。
時代は前漢時代。ある事情で隔絶された土地に住む一族。祭祀をつかさどるそのなかの一家がほぼ皆殺しにされる。しかもその事件は、物理的に不可能な状況においてだった。四年後、その土地を訪れた、裕福な豪族の娘は、またしても次々に起こる不可能犯罪を調べ始める……
雪に残る足跡、ダイイングメッセージ、アリバイトリック……本格の要素がこれでもかとぶちこんである。オープニングからしばらくは四書五経などからの引用が続き、読み終えることができるのかと思ったけれど、途中からは一気呵成。しかも、途中に読者への挑戦状まで挿入されています!(笑)
同じ漢字文化圏のなかにいるので、漢字そのものの持つ意味がうっすらと感じとれてうれしい(漢文は苦手だったけど)。酒見賢一が登場したときとイメージは似ているかな。
ただし、本格推理であるだけに、いかんせん動機に説得力がないのは仕方がないのかしら。まあ、二千年前だと成立するのかなあ。日本の本格推理と同じような美点と弱点をもっているのが興味深い。
え、この作者は日本のミステリを徹底的に読みこんだの?そしていまは石川県に住んでいるの?これはこれは。