その本は結末まで読み終えることができない。なぜならその「熱帯」なる書は……
ある特定の人物たちがその本を追い求める過程を描きながら、語り手は別の人間に移り、物語内物語となり、そしてその物語のなかの登場人物が語り始め……千一夜物語の器を借りて、森見登美彦ワールドが炸裂する。
冒頭に森見自身がエッセイの形で千一夜物語について語り(導入として秀逸)、そしてエンディングで書籍というもの、物語るということはどういうことなのかにケリをつけてくれる。一気に読んでやる、と心に決めていたので幸運。これは一気に(そして紙媒体で)読むべき書だ。