テレビ東京の参議院議員選挙開票特別番組で、キャスターの池上彰が自民党議員の小泉進次郎の演説の様子を取材した場面があった。秋田県での演説だ。
演説の内容は、少子化についての話で、少子化は止めようがない現象だから、人口が少なくなっても豊かな生活を公正に引き継ぐための工夫を考えることが必要だという至極まともな内容だった。そして聞いていたおばさんたちは、話がわかりやすい、地元のことをよく知っているなど、感心していた。おそらく自民党に投票したのだろう。街宣車の演説台に上げられた若者も、野党に投票するつもりだったが進次郎の話を聞いて自民党に投票すると答えていた。
しかし、参院選の目的のひとつは、現政権についての是非を問うものである。現政権の政策はアベノミクスと呼ばれる経済政策であり、戦争法案をはじめとする憲法改正である。進次郎の話は、池上彰の解説によるとアベノミクスを真っ向から否定するものだ。にもかかわらず進次郎の演説を聞いた有権者は、参院選の目的も意義も何もわかっていないままに自民党に投票した。
小泉進次郎の動きは池上解説によれば権力への野望が原動力で、東京五輪後に総理大臣を狙っているという。自民党を勝たせようという目的ではなく、各候補者に恩を売って、党内での人脈を築き上げるのが目的で、将来の総裁選への布石としていると解説していた。
池上解説が正しいかどうかは別にして、進次郎の演説の内容と参院選の争点はまったく無関係であることは確かだ。しかし演説を聞いた有権者は自民党に投票する。どうしてそうなるのか。
池上彰はそこにまでは踏み込んでいなかったが、要するに日本人のミーハー気質と、自分でものを考えない国民性が、今の政治を作ってきたのだ。有権者の投票の直接の動機は、政策の比較などではない。
人気者で見た目がいい
握手してもらった
わざわざ辺鄙な田舎に来てくれた
候補者が親戚だ
職場で投票するように言われた
実は有権者の投票動機はこんなものだ。アベノミクスが成功したのか、失敗だったのか、憲法を改正すべきなのか菜度について、深く考察して投票する有権者の割合は非常に少ないと推測される。
戦争を実体験として記憶している人は非常に少なくなっている。戦争の恐ろしさを知る人がいなくなるということだ。戦争を知らない者たちが共同体の美学や大義名分の言葉の響きのよさに酔いしれて戦争する国にしようとしている。日本会議をはじめとする右翼思想の人間たちだ。ダッカで日本人が殺されたのは日本会議を後ろ盾にした安倍晋三の演説が原因である。テロに屈しないと勇ましく演説すれば、ミーハーな日本国民受けはするだろう。しかし大人の政治家が話すべき内容ではなかった。テロが起きる原因、テロ集団の目的、地政学的な分析など、必要な情報はまだまだ十分ではない。宗教が原因でテロが起きると単純に決めつけるのは単細胞のドナルド・トランプだけにしてもらいたい。
衣食足りて礼節を知るという中国の諺は常に正しい。テロの原因も元はといえば貧しい暮らしと迫害である。宗教が原因ではない。テロが起きないようにするためには世界レベルでの格差対策が必要なのだ。
日本国内でも、格差が顕著になってきている。にもかかわらず安倍自民党が選挙で圧勝するのは、国家という共同体を客観的に分析する思考回路が欠如しているからである。