日比谷のシアタークリエで芝居「フローズン・ビーチ」を観た。
出演者の中でもシルビア・グラブとブルゾンちえみの芝居は面白く、鈴木杏の元気一杯の演技はとてもよかったのだが、朝倉あきが体調不良で交代したのは返す返すも残念である。
芝居そのものはというと、そもそも脚本にかなりの無理がある。芝居はもちろん典型的な人物が典型らしく振る舞うことでダイナミズムが生まれて物語を進めるエネルギーとなるものだが、不自然すぎるリアクションが続くとリアリティが欠如してしまう。笑える場面はいくつかあってそれなりには楽しめたが、心に残るものが何もなかった芝居だった。
映画「Happy Death Day」を観た。
https://www.universalpictures.jp/micro/happydeathday
かなり楽しめた。トム・クルーズ主演の「Edge of tommorow」(邦題「オールユーニードイズキル」とほぼ同じで、殺されるたびに学習して対策を立てるがなかなかうまくいかないというプロットである。
本作品の主人公はトム・クルーズほどタフでもなく戦闘力も殆どないが、等身大の女子大生としてのリアリティがある。四角四面で権威主義の軍隊とは違って大学の女子寮と男子寮の住人たちは軽薄で浅薄な人間ばかりだから、肩の力を抜いて鑑賞できるところがいい。
道徳的というか説教臭いシーンもあるが、ダイエットしてモテ女子を目指しつつセックスを楽しみ大学生活を謳歌するアホな女性大生が何度も死んでいくうちに世界観に目覚めていくプロットはとても優れたアイデアだと思う。もう一度観たいかというと、ぜひ観たいと答えるであろう稀有な作品である。傑作と言っていい。すでに公開されている続編「Happy Death Day 2U」も観ようと思う。
映画「Fast & Furious: Hobbs & Shaw」(邦題「ワイルド・スピード スーパーコンボ」)を観た。
https://wildspeed-official.jp/
この手の映画を見るたびに、アメリカのアクションスターの格闘センスやアクロバット能力の高さに驚かされる。彼らはよほどの運動神経の持ち主でなければできない演技を楽々とこなして見せる。本作品の主役たちはその代表選手みたいなもので、超人的だがリアルという難しいアクションを息も乱さないで演じ切る。
本作品はジェイソン・ステイサムが高級車を運転するのでどうしても「トランス・ポーター」を思い出してしまうが、カーチェイスのクールさは変わらない。そして何度か出てくる「Hang on!」という台詞には痺れる。
「つかまってろ、俺がなんとかする」と日本語で冗長に言うよりも、ひと言「Hang on!」のほうがより多義的であり、優れている。英語表現の中にはたまに日本語よりもしっくりくる言葉がある。日本語にも「もったいない」のように他言語では表現できない言葉があるから、このグローバル化の時代ではどの言語であろうと、表現しようとしていることに最も適した言葉を使えばいい。
バネッサ・カービーがロシア語を話していたのは悪の元締めの居場所をロシアにしたからだろう。言語はコミュニケーション手段だからどんなに適した言葉でも、通じなければ意味がない。しかし敢えてロシアにしなくてもよかった。トランプに阿ったのだろうか。
自動車もオートバイもハイテクが沢山登場する本作品も、世界観は相変わらずの家族第一主義である。家族主義はハリウッドB級映画のパラダイムだから仕方がない。アメリカは移民の国だから、国まるごと根無し草と言ってもいい。だから拠り所としての権威と、地位としての権力と、社会的信用としてのカネを追求する。成功すれば大統領にだってなれる。
しかし失敗し、自分の可能性の限界を知った人間は家族主義者となり、家族こそが自分のレーゾンデートルだと信じ込む。そうしないと生きていけないからだ。家族主義が現代アメリカのパラダイムだということは、大多数の人間が家族主義者であることを示している。そして家族に幻滅してアメリカンドリームにも破れた少数の人間は自殺するか、銃を乱射するか、あるいは長い孤独に耐えて生きるしかない。
作品としては面白いし楽しめるのだが、世界観が薄っぺらだから、その向こうにアメリカの病巣が透けて見えるようだ。