三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「神は銃弾」

2024年12月29日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「神は銃弾」を観た。
神は銃弾 - 株式会社クロックワークス - THE KLOCKWORX

神は銃弾 - 株式会社クロックワークス - THE KLOCKWORX

「このミステリーがすごい!」 第1位!全世界のノワールファンを虜にしたベストセラー、待望の映画化!

株式会社クロックワークス - THE KLOCKWORX

 キリスト教の教えに従って、平穏に生きてきたし、世の中はキリストが教えた通りに健全に推移してくと信じていた主人公ボブ・ハイタワーにとって、全身にタトゥーを入れるカルト宗教は、理解できない世界であり、その信者は理解できない範疇に属する。
 そもそもそんな世界があることは知っていてもあまり考えなかったし、関わりたくもなかった。しかし向こうから関わってきたら、必要な対処をするしかない。ボブの心境はそういったところだろうか。ただ娘の奪還に対する執着は半端ではなく、通常なら受け入れがたいタトゥーの施術も受け入れる。このあたりから、主人公は警官というカテゴリーから自分を解き放っていて、目的のためなら何でもありという無法者に変身する。

 ある意味では爽快な変身だが、主人公の正当性を担保するためなのか、カルト側が一方的に絶対悪のように描かれているところと、家族第一主義のアメリカ映画の呪縛から脱しきれていないところがあって、本作品はB級作品に留まっている。その割に長いので、暇なら観ても損はない、という程度の評価にしておく。

映画「バグダッド・カフェ 4Kレストア」

2024年12月29日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「バグダッド・カフェ 4Kレストア」を観た。
映画「バグダッド・カフェ 4Kレストア」公式サイト

映画「バグダッド・カフェ 4Kレストア」公式サイト

アメリカ西部、モハヴェ砂漠にたたずむ寂れたモーテル「バグダッド・カフェ」。人々の心を温かく抱きしめた珠玉の名作が、公開から35年を経て4Kレストアされスクリーンに鮮...

映画『バグダッド・カフェ 4Kレストア』公式サイト

 本作品は4Kデジタルリマスターだが、もともとは1987年製作のドイツ映画である。2024年のいまからすると、37年前だ。この間に世界で起きた最大の出来事は、もちろんインターネットの普及である。

 インターネットが生活の中に密に入り込んできたのは、電話端末の発達で、時と場所を選ばずに大量の情報を得られるようになってからだろう。誰もがスマホを持って、世の中で何が起きているのかとか、今いる場所だとか、次の行動のためだとかいった情報をのべつ幕なしに収集し、同時に自分の情報を発信したりしている。お陰で人々が隠していたバイアスが世の中に広く明るみに出され、問題化したのが現代だ。

 本作品では、バイアスを抱えた人々が互いに交流して、自分の中の偏見や無為なこだわりを解消していく様子を描く。人種や民族の違いで相手を拒否しようとするカフェオーナーのブレンダに対し、カフェの人々の純朴さを愛するドイツ人女性のヤスミン。オーナーのバイアスで拒否されてしまうヤスミンだが、持ち前のポジティブな精神性で異文化を受け入れ、みずからも提案し、積極的に関わっていく中で、関係性の改善を実現する。
 まさに今の時代に求められる姿勢であり、行動力だ。差別や分断を解消するには、差別用語を使わないように気をつけるなどといった消極的な姿勢ではなく、積極的な関わりと寛容の姿勢が求められる。
 共同体の指導者たちは、自分たちの立場を守るために人間をカテゴライズして、敵と味方に分け、敵を攻撃することで味方意識を増強させるというバカな政治を繰り返してきた。民主主義の時代になっても、有権者は指導者たちの本質を見抜けず、バカを選び続けている。本作品は人類の愚かな本質を砂漠のカフェを舞台に描いていると言っていい。

 ドイツはフランスと並んで哲学の国だ。カントやショーペンハウエルのように、世界の本質を見抜くDNAを連綿と受け継いでいるに違いない。本作品は、極めて日常的な様子を描いているように見えるが、扱うテーマは実に哲学的だ。傑作である。