日々好日・いちよう

ちょっとした日々の一コマです

「朔立木」小説は共感

2008-07-23 | 読書
今日は長いです・・

待っていた「朔立木」の新しい文庫本
「深層」「死亡推定時刻」を読んで次が待ち遠しかった。
新刊は「命の終わりを決める時」
装丁の絵はかなりの異色さ
まるで翻訳本のよう・・



やはり、少し前のあの事件とこの事件が題材だ。
「愛するからこそ、殺さねばならなかった・・」帯の一文
「終の信託」と「よっくんは今」の中編2作
2作とも一気読み。

小説が面白いと感じる一番の要素は
奇想天外なプロットや筋書きはともかく
「共感」
登場人物に「そうそう・・」共感して意識投入が出きること。
数時間の間に読む側をどれだけ引き込めるか・・
悪人であれ、善人であれ、普通のひとであれ
1歩でも近寄れなくては読み終われない。

「終の信託」の主人公の女医にはかなり共感しつつ読み終わった。
ベテラン女医さんが患者を安楽死(?)させ
親族が後になって訴えたあの新聞で騒がれた事件。
新聞に書かれた結果を幹にして死に至らしめる経過を
作者が想像(創造)し小説にした。
だから、真相は違うところだろうが・・

一気読みの揚げ句、最後になにかが引っ掛かった。

自制心があり、教養もあり患者としては最高の男性。
駆け出しのお医者が患者に触発されて成長、
専門医として一目置かれる存在になり
患者とは強い絆で心が結びついた。

喘息患者が「自分の死に時期は任せた」
「その時になったら子守歌を歌って送って欲しい」
ここまでは良い(良くないか・・)
「妻は自分に頼り切りで、重大な決定は出来ない」
このところで引っ掛かる。
長年連れ添った妻よりお医者の方が信頼出来るなんてことは
あり得ない!!
ましてや「命」一度無くしたら取り返せない。
「命」は本人だけのものではない
妻や子供、回りの人達
「存在」に係わる人全てのものだ。

住宅設計に携わっていると
「あの家庭」「この家庭」に深く係わる。
その中で感じることは
「あの夫がいて、この妻が存在する」
「この妻がいて、あの夫の一言がある」
「妻よりあなたを信頼します」なんて施主がいたら逃げ出します。
夫が人格者で妻がダメ妻なんてあり得ない。
妻がしっかり者で夫が頼りないなんてない・・実感。
聡明な夫には賢い妻
クレーマー妻には小言幸兵衛(私の施主にはいない)
夫婦は鏡のようでないと続かない。

チグハグな夫婦は途中で破綻して、
家を建てることには至らないのかも知れない。
まして、妻を他人より信頼出来ない夫は離婚の憂き目に遭っているはずだ。
賢い患者は鈍感な夫、頼りにならない妻はそう見せることを夫が好む・・だけ

この物語を途中から作り直し
夫が妻を信頼しないから親身に看病出来ずにこの結末になった。
または、夫に対する妻の復讐劇にしようか・・
読んだ夜は眠れなかった。

売れっ子弁護士で売り出し中の小説家の「朔立木」
奥方の「賢さ」から学ぶところはまだまだありそうだ。

1冊の小説なのに入れ込み過ぎ、ケチをつけ過ぎたが
検察官や取り調べ警察官の「策略」はリアルで
「さすが!」
犯人の心理が分からない事件が頻発している今日この頃
やはり「小説より奇なり」を思わせてくれる2作である。

お勧めの1冊です。
コメント
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