しかし、幾ら人が封筒を受け取っても、どれだけの封筒が光君から手渡されても、何方も一向に数が尽きるという事が無さそうな気配です。
人も封筒も、数の減少、増加以前に、それらの数は現れるものと消えていくものでお互いに相殺されてそう変化が無いように見受けられました。
『この人の帯も茶封筒も、まるで永遠に、無尽蔵に、それこそ無限大にずーっと山の向こうまで続いていているように見えることだ。』祖父がそう思っていると、
黒い色しか見えなかった髪や衣の中に、他の色の衣や髪の色が混じっていると思ったら、それは衣ではない様々な服装に変わり、
同じ顔と思っていた人々にもちらほらと違いがみられるようになり、男性とばかり思っていた群れの中にも何時しか女性がいてと、
そういった変化の出た個々人の人々のラインが、果てもなく光君の前からずーっと波になって山の向こうへと続いて行きます。
「如何です?、大体分かったでしょう。」
光君は手を止めずに祖父に話しかけました。そして、何時の間にかやって来た男性に茶封筒の配給役を交代してもらうと、
やれやれという感じで祖父の側へやって来ました。
交代した男性が誰か疑問に思った祖父が光君に尋ねると、光君は、あれは家の執事ですと答えるのでした。
「執事か。」
祖父は何だか笑ってしまいました。孫はそんな者を雇うような身分になったのか、いやいや、お前がねと感心していると、
「郷に入り手は郷に従えですよ。」
光君は照れ笑いしました。
そして、まぁ、でも彼の場合はボランティアで執事をしているんですよと言うのでした。
「彼は執事の仕事が好きなんです。人に尽くす事が生き甲斐でね、それでこちらもボランティアで彼の事を雇っているんです。」
と、妙な事を言うのでした。
「ワイフがそう言うことが好きなので、僕はそうでもないんですが。」
「ボランティア?」
祖父は妙な顔をしながら、それではあの男の人は無料なのかい?只働きなの?と光君に尋ねてみました。
「無論です、奉仕活動ですから、向こうもこちらも只です。」
へ―ット驚く祖父を光君はやや複雑な表情で見やりながら、彼は躊躇いがちに妻への不満を祖父に打ち明けるのでした。
「家に他人がいると言うのは如何も慣れません。」
お給料を払って居てもらう分には気にならないんですが、無料の居候でも、こちらがお世話になっているという感じなのは頂けなくて…。
彼女に言わせると、彼は他人のお世話をする事で生き甲斐を感じているから、
僕達がお世話してもらう事で彼を幸せにしているんだ、だからフィフティフィフティでお互い様だと言うんです。
気にしなくていいと。