Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、153

2017-04-28 09:16:50 | 日記

しかし、幾ら人が封筒を受け取っても、どれだけの封筒が光君から手渡されても、何方も一向に数が尽きるという事が無さそうな気配です。

人も封筒も、数の減少、増加以前に、それらの数は現れるものと消えていくものでお互いに相殺されてそう変化が無いように見受けられました。

『この人の帯も茶封筒も、まるで永遠に、無尽蔵に、それこそ無限大にずーっと山の向こうまで続いていているように見えることだ。』祖父がそう思っていると、

黒い色しか見えなかった髪や衣の中に、他の色の衣や髪の色が混じっていると思ったら、それは衣ではない様々な服装に変わり、

同じ顔と思っていた人々にもちらほらと違いがみられるようになり、男性とばかり思っていた群れの中にも何時しか女性がいてと、

そういった変化の出た個々人の人々のラインが、果てもなく光君の前からずーっと波になって山の向こうへと続いて行きます。

 「如何です?、大体分かったでしょう。」

光君は手を止めずに祖父に話しかけました。そして、何時の間にかやって来た男性に茶封筒の配給役を交代してもらうと、

やれやれという感じで祖父の側へやって来ました。

 交代した男性が誰か疑問に思った祖父が光君に尋ねると、光君は、あれは家の執事ですと答えるのでした。

「執事か。」

祖父は何だか笑ってしまいました。孫はそんな者を雇うような身分になったのか、いやいや、お前がねと感心していると、

「郷に入り手は郷に従えですよ。」

光君は照れ笑いしました。

 そして、まぁ、でも彼の場合はボランティアで執事をしているんですよと言うのでした。

「彼は執事の仕事が好きなんです。人に尽くす事が生き甲斐でね、それでこちらもボランティアで彼の事を雇っているんです。」

と、妙な事を言うのでした。

「ワイフがそう言うことが好きなので、僕はそうでもないんですが。」

「ボランティア?」

祖父は妙な顔をしながら、それではあの男の人は無料なのかい?只働きなの?と光君に尋ねてみました。

「無論です、奉仕活動ですから、向こうもこちらも只です。」

へ―ット驚く祖父を光君はやや複雑な表情で見やりながら、彼は躊躇いがちに妻への不満を祖父に打ち明けるのでした。

 「家に他人がいると言うのは如何も慣れません。」

お給料を払って居てもらう分には気にならないんですが、無料の居候でも、こちらがお世話になっているという感じなのは頂けなくて…。

彼女に言わせると、彼は他人のお世話をする事で生き甲斐を感じているから、

僕達がお世話してもらう事で彼を幸せにしているんだ、だからフィフティフィフティでお互い様だと言うんです。

気にしなくていいと。

 

 


持っています

2017-04-28 08:20:11 | 日記

 ピクニックセットの食器などや紙コップはありますね。後は炭も持っています。

炭はバーベキュー用の製品ですが、園芸に使っていました。入浴にも使った事があります。

湯船に入れてお湯を綺麗にしたり、柔らかい水質にしたりしての使用感を試してみました。

 家自体がアウトドア派ではないので、他はピクニックマット程度の備品しかありません。

珍しい所では、昨年野ざらし状態の玄関前の自転車様に、簡単なテント式休憩所を買ってきました。

影が出来てよいかと思ったのですが、強風時に杭などで止める場所がないので、結局使用せずにお蔵入りとなっています。

今年は使用するチャンスがあるでしょうか?アウトドアに出かける事があるかしら。


ダリアの花、152

2017-04-27 23:56:01 | 日記

 彼は蛍さんの傍に歩み寄ると、

「君は絵が上手なんだね、あれはシャガだね。」

「直ぐにシャガだと分かったよ。確かに周りにはあの花が咲いてはいたけどね。」

「あの花を見なくてもあれがシャガだと分かる絵だったよ。」

彼はそう言うと、口元に少し寂しい微笑みを浮かべ、遠慮がちな態度で

「君の絵を稚拙な絵だと言って悪かったね、私が間違っていたよ。」

と、かつての自分の彼女への非礼を詫びるのでした。

 『あの頃が遠い昔のような気がする。あれからもう2年が過ぎてしまったなぁ。』

もうあの時代にも帰れないんだろうかと祖父は思い、そう感じると、彼は不覚にも地面にパタリと涙を落としてしまいました。

そう、光君の祖父は息子一家と、2年近くもまた別の世界で過ごして来たのでした。

あの世界の孫の蛍は利発で可愛らしく、やはり絵が上手だった。それも今は帰れない世界になってしまったのか。

『諸行無常というけれど、本当に世の中は無常だなぁ、私の場合は身をもってそうだと感じる。』彼はひしひしと身に迫って来る寂寥感を感じるのでした。

 蛍さんは、光君の祖父がパタリと地面に落とした涙を見ていました。

彼女はそれを見て、天から地面に最初に落ちる雨粒を連想しました。

しかし、それが雨ではないと彼女に分かったのは、その雨粒が彼の髪の庇の下から落ちた物だったからでした。

地面に当たってぱつっと弾けた雫が、訳知らぬ蛍さんの胸の内に妙に染みて来るのでした。

彼女は心動かされて、何かしらの真義を判定するようにじーっと光君の祖父に目を注ぐのでした。

 そんな祖父と蛍さんの様子を垣間見ながら、光君はあたりの空気の変化に気付きました。

「もう始まりますよ。」

その声に、光君の祖父はそっと目頭を抑えると、彼の声の指し示すらしい方向に目をやりました。

 そこには何時の間にか黒々とした人波が現れ、光君の前からずーっと境内の奥の山の山頂迄、

果てしなくまるで帯の様に繋がっているではありませんか。

その人々の群れは、1人1人が入れ代わり立ち代わり、にこやかに光君から茶封筒を受け取ると、

彼に感謝の言葉、そして彼から労いの言葉を受けて、まるで消え入るように帰って行くのです。

光君は目の前のその大軍を物ともせずに、次から次へと自分の手にした封筒を手渡していきます。

 『あんなに多くの人にお金を渡しては、いくら家でも資産が尽きるのにそう時間はかからないだろう。』

それで財産を処分したと言っていたのかと祖父は合点しました。


ダリアの花、151

2017-04-27 11:43:10 | 日記

 『では孫がこの年になる頃には私はこの世にいないんだな。』そう思うと、胸が漫ろになり、何とも寂しい気がします。

彼は急にしんみりとしました。

この調子では、孫が結婚すれば私は自分1人の寂しい余生になるんだろうな、そんな事を考えていると、

「じっちゃん、俺は大きな賞を取ったんだよ。自慢していい孫なんだよ。」

光君はそう言って笑顔を浮かべると、祖父を慰めるように彼の顔を覗き込みました。

「確かに僕の世界の祖父はもう亡くなりましたが、あなたの世界の僕が賞を取るまで、あなたは長生きしているかもしれませんよ。」

「え!」

「だから、僕はあなたの世界の光ではないんです。でも、あなたの世界でも同じような事が起こっているでしょうから、

またはこれから起こるかもしれませんから、僕の祖父の分まで孫の事を自慢に思ってください。」

「それは如何いう事なんだい。」

彼は、自分は昔人間だから君の言う事がさっぱり要領を得なくて分からないんだ。

何を言っているのかよく分かるように説明してもらえるとありがたいんだがなぁ。と、正直に言ってみました。

 「私によく分かるように説明してくれないか。」

光君の祖父は言葉少なに、余り期待せずにこう申し出てみました。

すると、意外な事に光君はかまいませんよと言うではありませんか。

「論より証拠です、今からここで起こる事を見ていてください。」

彼はそう言うと、さっきお寺さん達が行ってしまった方向を向いて、何事かが起こるのを待ち構えていました。

 そしてふと気付いたように、

「そうだ、今の内にこの年代のワイフの絵を見て置きませんか。」

祖父ちゃん絵が好きでしょう。彼はそう言うと、祖父に門の外に描かれている筈の、先程蛍さんが描いていた絵を見るように勧めるのでした。

「この時期のあなたは、あの子の事を誤解していますよ。特に絵についてね。」

そう言って、彼は手で山門の外を指さしました。

 光君の祖父は、孫に勧められるままに山門の外に出てみました。地面を見下ろして絵を探すと、確かに先ほど蛍さんが何やら地面に蹲っていた所に絵が描いてありました。

「ほほぅ、これは。」

彼はその絵にとても感嘆しました。その絵に彼女の才気を感じ、思わず機嫌よく拍手をすると、周りに生えている画材になった花々と彼女の絵を交互に見比べてみるのでした。

 淡青紫色の花々の色に、美しいねぇと呟き、群生するその容姿の可憐さを愛でるのでした。

そして、薫風の中、彼は気分よく周りの新緑の大気を思いっきり吸い込んでみました。

この瞬間、身も心もリフレッシュされて、生気を帯びた彼は清々しくにこやかに光君の所まで戻って来ました。

 「いいね、あれはいいよ。あの子が描いたのかい?」

『栴檀は双葉より芳し』と言うね。将にそれだね。そんな事を言って慈しむように目を細めると、改めて蛍さんの事を眺めてみるのでした。

 


ダリアの花、150

2017-04-26 16:53:22 | 日記

 祖父のこの様子に、光君はまあまあと彼を宥めました。

そんなに気持ちを高ぶらせては体に悪いです。長生きできませんよ。そう言ってから、

「それだけ世の中の人間には、少しでも自分が良くなりたいという様な醜い欲が有るという事ですよ。」

そうなのだろうか?そうかもしれないと、光君の祖父は気持ちを静めながら、孫の言葉に何だか納得して黙りこくるのでした。

 やや間があって、落ちついた祖父はハーッと溜息を吐くと、

『早く自分の世界に戻って、孫の光とのんびり将棋でも指したいな。』と思いました。

「あの朝の勝負も途中になっていたなぁ、」

と思わず盤面の駒をひっくり返す手つきをしました。

それを見て、光君は急に祖父の身振りに飛びつくような勢いで、喜々とした声を上げました。

 「王手!」

「これで僕の勝ちだ、じゃあ、じっちゃんの負けだね。」

そう目を輝かせて如何にも嬉しそうに弾む光君に、祖父は思わず、あれっと、

「お前世界が違う光だと言ってなかったっけ?」

どうしてあの勝負の続きが分かるんだいと、呆気に取られて、少々訝し気に睨んでみます。

 光君はこれはしまったという感じでしたが、言ってしまったからには仕様が無いと、悪びれもせずにこう言うのでした。

「じっちゃん、僕のワイフが嫌いでしょう。」

僕は過去を鑑みて懲りたんだよ。じっちゃんとはもう仲良くしない事にしているんだ。ワイフが可愛そうでね。

孫のその言葉を聞きながら、祖父は憮然として眉根に皺を寄せました。ムッとした表情を浮かべて仕舞います。

 「仲良くしないって如何いうことなんだい?成人してからは私と別々に暮らしているとでも言うのかい?」

そう祖父は光君に尋ねました。そこで光君は1つ咳くと、落ち着いて話し出しました。

「そう、別居以前に僕達はもう日本に住んでいないんだ。今、僕はワイフと2人で海外暮らしなんだよ。定住するつもりなんだ。」

「成る程ねぇ。ワイフを聞いた時に、もしやと思ったがやっぱりそうか。」

それで、と彼は一寸微笑んで孫の話の続きを促します。 

海外に定住するというからには、孫は確りとした良い生活をしているのだろうと思ったのです。

 「祖父ちゃんには悪いけど、僕、家も継いでないんだ。財産も皆処分したし、

お寺さんには墓の永代供養を頼んでおいたから心配ないよ。祖父ちゃんの分もね。」

祖父はそれを聞いて表情を強張らせると、寂しそうにそうかとだけ答えるのでした。