眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

仮死

2009-10-25 19:47:00 | 猫の瞳で雨は踊る
仲間たちは、次々と売られていったものだ。
その先にあるのが、今よりも自由なものか幸福なものかはわからない。
それは残ったものたちには、未知だった。
そして、私はこの短い夏の中で誰にも選ばれることなく残ってしまった。
西瓜の季節が終わる頃、私はだんだん動けなくなった。
元々、動ける範囲は限られていたのだが、いよいよ私は本当に動けなくなってしまったのだ。
しばらく----というのも、ここでは朝も夜もなく、徐々に私は時間の感覚を薄めていったのだ----私は、石のようにして動かなかったのだと思う。
そして、とうとう指が恐る恐る私を持ち上げて、私を運んでいく。その間、私はもちろん動かない。
レジの後ろに、適当に私は置かれた。私の隣には、「破れている」と紙片が貼られた冷凍の袋が無造作に置いてあった。「破れている」だから、それでどうなるのか、私にはまるでわからない。


「死んでいる?」

それが私に貼られたラベルだ。
私は、ただ動けなくなっただけなのだが……。
しばらく、私はそうして放置されたままだ。この先のことはまるでわからない。

「あっ、カブトムシ!」

幼いものが、目を輝かせながら私の方を指差した。


*


「眠ったの?」
ノヴェルから奪い返したケータイを開いて、マキは猫の文字列を追いかけた。
猫の謎色に塗られた短い言葉は、いつからかマキの瞳を輝かせるようになっていた。
「ねえ、眠ってしまったの?」
いつも猫は、眠ってしまう。眠った時にだけ、猫の物語は開いているのだ。


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ストーリー・キラー

2009-10-11 18:51:59 | 猫の瞳で雨は踊る
----私は何度も殺してきたのだ。
----物語の中で生きたまま、たくさん置いてきたのだ。

猫は、告白を終えて、ケータイを閉じた。


*


マキは、眠った猫からケータイを奪い返し開いた。
「わー。怖い」
穏やかに眠るストーリー・キラーの横顔に目を落とした。

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冷たい時計

2009-09-23 19:42:14 | 猫の瞳で雨は踊る
私はどうして
余計な注文をしてしまったのだろう

飲み干してしまった時
私は行かなければならない

時間のゲージに降ろされた
指よりも細く透明な縦笛を
頼りなく口に含んで吸い上げると
時は螺旋を描きながら私の中へ消えてゆく

消えてゆく苦しみに
せめて少しは抗おうとするみたいに
きらきらと冷たい石がまとまりながら落ちながら
自身をゆっくりと縮小させていく

どうせ消えてしまうのなら
私は何も言わなければよかった

私は私が招いた
さよならの時計を
もう少しで飲み干すのだ

そのためだけに私はここを訪れた

*

猫から奪い返したケータイを、マキは熱心に読み解いた。
「ねえ、ノヴェル。
あなたは時計なんて持ってないでしょ?」
マキは、右手の時計を見せびらかすようにして言った。
けれども、眠りに落ちた猫にとってその興味はすっかり夢の中にあった。
「あなたが縛られるのは、夢だけね」

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書き出しちゃえ

2009-09-20 08:25:06 | 猫の瞳で雨は踊る
----空虚と空白が襲ってくる前に、書き出しちゃえ。

そう書き込むと、猫はケータイを閉じて居眠りを始めた。

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助走ギター

2009-09-17 20:59:40 | 猫の瞳で雨は踊る

伏せたままじっと動かない犬に、女は何度も話しかけていたが、犬は一向に説得に応じようとはしなかった。
紐を持ち上げようとしても、大きな犬は、ぴくりとも動かなかった。
何度も信号が変わり、渡り人たちが入れ替わり、彼女たちの前を通り過ぎていった。
ごく何人かの人たちが、時折彼女に声をかけた。あるいは、犬に声をかけ、その大きな背を撫でる者もあったが、犬は何も言わず、何も反応を示さないのだった。


交差点の対角線上の場所で、少女はランドセルを置き煙草の自販機の前に座り込んだ。
対岸の動かない犬を、じっと見つめていた。
いつからああしているのだろう……。
粗大ゴミ有料です。
ランドセルに貼られた紙が、風にはためいていた。
少女は、行進をする蟻たちにそれを千切り与えながら、お話を始めた。

彼女はお腹に小さなギターを抱えていたのよ。
彼女はちょうど私ほどの大きさだったのよ。
「ギターは弾けるの?」
私は彼女にそう訊いたの。

蟻たちは行進の妨げとなる紙くずに一瞬驚いたり、戸惑ったりしながらも、規則正しく餌を運んでいた。
けれども、時折間違えて、少女の落とした偽の餌に騙されて腰を折る蟻も中にはいたのだった。

彼女は言ったの。
「玩具のギターじゃ弾けないわ」
彼女はいつもお腹にギターを抱えていたのよ。
けれども、それは玩具だったのね。
ねえねえ、聴いてるの。

蟻の一匹が、少女の話に足を止めた。その後の蟻が足を止めて、その後の蟻が足を止めた。その後の蟻が足を止めて、その後の蟻がまた足を止めた。そうして蟻の行進は停滞した。蟻たちはみな足を止めて、少女の話に耳を傾けた。

「大きくなって、本物のギターを弾けたらいいね」
私は、何も知らなかったの。
彼女はいつまでもそのままだった。
私はどんどん大きくなってしまったけれど。
いつの間にか、彼女はいなくなってしまったわ。
いつの間にかね。

少女は紙くずを千切り終えた。蟻たちは、押し黙ったまま少女の話を聴いていた。紙くずに腰掛けたりして聴いている者もいた。紙くずの下に隠れて潜んでいる者もいた。ただ、何匹かの蟻は首を傾げていたりもした。

私が弾いてやるんだ!

少女は、そう言って胸に抱えた空気をかき鳴らした。
振動に触れて、蟻たちは歩き出した。今までの遅れを取り戻すかのように忙しなく歩き出した。
千切り捨てられた紙くずは、風に舞って飛んでいった。


新しい女がやってきた。
それは今までとは違う女だった。
なぜなら、あれほど頑なだった犬が、瞬間立ち上がったからだ。
犬は、大きく目を見開き、女に笑いかけた。今日あったことを、何から何まで話した。
と、少女は思った。
「待っていたんだぞ。ずっと、キミを、待っていたんだぞ」
大きな犬は、女の顔に飛びかからんばかりに鼻先を近づけながら、言った。
最愛なる再会を見届けて、少女は立ち上がった。
犬たちと反対の方向へ、時々振り返りながら歩いていった。

*

「ねえ、それで。
その少女はどこへ行ったの?」
けれども、猫はもうすっかり眠りに落ちていて何も答えなかった。
長文を書き終えた後の猫は、いつも決まってこうなるのだった。
夢中を覗き見るように、マキはそっと猫の額に顔を近づけた。微かに寝息だけが聴こえた。

「これでしばらく、これは私のものね」
猫の手から奪い取ったケータイに、そっとつぶやいた。

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ドミノ

2009-09-14 13:27:28 | 猫の瞳で雨は踊る

順調だったよね
完璧だったよね

ずっと
ずっと

うまくいってたよね

不安はなかったよね
問題はなかったよね

まるで
まるで

*

「ねえ、ノヴェル。何書いてるの?」
マキが近寄ってくると、猫は瞬時にケータイを閉じてしまう。

----見いちゃ、ダメ!
小さな顎の下に子猫を隠すようにした。黒さに紛れてそれは見えなくなった。

「私のケータイでしょ」
けれども、猫は耳を貸そうともせずに伏せていた。
しばらくの間そうしていて、マキがいなくなるのを待って、再び取り出した。
ケータイを器用に開くと、それよりもっと器用に文字を打ち始めた。
マキから盗んだものではなく、それは猫自らが選び出す言葉だった。

*

まるで
まるで

平和だったよね

完成も
間近だったよね

なんで

忘れちゃったんだろ


ねえ

とても

順調だったよね

順風だったよね

とても


ここに来るまでは

*

こっそりと近づいて、マキは画面の中を覗き見ていた。
「ねえ、って……」
「あんた、ドミノ倒しでもやっていたの?」

----見いちゃ、ダメ!
猫が気づいて、再びケータイを閉じた。
降りてきたばかりの夜の中に、猫はケータイをくわえて駆けていった。
夜の色にすっかり溶けて見えなくなった。
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オシムバス 

2009-08-04 11:39:02 | 猫の瞳で雨は踊る
もう時間はとっくに過ぎていた。
もう走れなくなったタクは、ゆっくりと道を歩いていた。
バスが、前方からゆっくりと後ろ向きでやってきて、すぐ傍で止まった。
「乗らなきゃダメ?」
バスを見上げて問いかけたが、バスは何も答えなかった。
乗客は、タクを含めて3人ほどだった。
「残念でした」
赤毛の少女が微笑みながら言った。
バスは、タクを呑み込むとゆっくりと動き始めた。
「乗り遅れた者だけが乗れるバスへようこそ!」
はしゃいだ口調が疎ましく、タクは顔を背けた。
窓の向こうの夜は何も見えず、その代わり口を開く少女の姿が見えるのだった。
「ねえねえ、名前は?」
「キミも乗り遅れたの?」
少女は何も答えず、窓硝子の上で目を輝かせて笑ったままだった。

バスはひたすら走り続けた。
タクを拾ってから、次の乗客を拾うこともなく、時折信号待ちをする以外はどこにも停車することなく走り続けた。
自分が最後の乗客だったのだろうか?
まだ自分の足で走り続けていたそう昔ではないはずの昔のことを、振り返った。けれども、あれは必然だった。あれが限界だった。年老いた運転手の横顔を睨みながら、タクは自分に言い聞かせた。運転手の目は細く、その奥底から光がにじみ出ているようだった。自分は泣いているのではないか? 目に触れてみたが、指先はプラスチックのように乾いていた。運転手はどこか、猫にも似ていた。
信号が赤になり、バスは止まった。運転手が不意に横を向いたので、タクは視線を逸らした。見知らぬ街路には見知らぬ人々が行き来する姿が映し出された。その時、窓はなぜかスクリーンのように思え、その向こうの人々はどこか虚構めいて見えた。あるいは、このバスのいずれかが……。

「ピノ食べる?」
少女の声と、ピノの冷たさが、タクを現実の世界に呼び戻した。そして、しばらく何も口にしていなかったことを思い出した。お返しにあげるものは、何も持っていなかったが、タクは丁寧に礼を言った。
「私は、まき。オシムの子よ」
「オシムって?」
まきちゃんは、笑って答えなかった。




*


猫は、昔乗ったバスの記憶を頼りに一気に書き上げた。
けれども、それはどこか虚構めいた物語に思えるものだった。
猫は、そっと手を伸ばし降車ボタンを押した。

「もう降ります」

バスは、冷たい声で言ったが、みんなは聞いていないようだった。
崩壊した物語を抱いて、猫は眠りに落ちていった。

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ケータイ小説

2009-08-03 13:50:19 | 猫の瞳で雨は踊る
   私のようなあなたへ捧ぐ




猫は、たった一行を書き込んで、すっかり満足しケータイを閉じた。
猫らしいペースで夢を見る。
夢の中だからこそ、その物語はこの上なく美しかった。
現実離れした空模様には大河が、浮世離れした花々から虹の香り、離れ離れの小人たちに揃いの万年筆。
それらは手をとった。融合した。決別した。散ったり黙ったりしながら、永遠に称えられる星たちの微笑みように触れ合い、結び合った。
テイクアウト!
けれども、猫が叫んだので夢は内側から壊れてしまった。

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キミのいる世界

2009-03-26 08:39:34 | 猫の瞳で雨は踊る
ひとりまたひとりと休みはじめてから何日かが経った。
とうとう少年も、休むことになった。少年は、深く深く休んだ。

「誰と来たの?」
「冬と」
女は言った。
雪の中から犬がやってきて、少年に飛びかかろうとしたが、白い女を見つけると炎の停止線に触れたように止まった。勢いよく後ろ足で大地を蹴った。交じり合う白と黒は明後日の方向に舞う。
「犬はあついから苦手」女は少年の背に隠れ込んだ。

「熱が下がらないわね」
誰かが、少年の額に触れた。少年の母だった。
少年の頭を持ち上げると、氷の枕をそっと差し入れた。

また逢えた。少年は雪の中でつぶやいた。
「あなたが憶えていてくれたからよ」
木馬の行進が、二人の間を遮った。就業時間に急ぐ朝の人々のように無の表情を保ったまま、ひとときも迷うことなくそれは進んだ。
途絶えることのない行進の中で、みるみる白く染まってゆく木馬たちを、少年は黙って見ていた。木馬も、その向こうにいるはずの女も、誰も何も言わなかった。
「大丈夫?」問いかけても、何もきこえない。
少年は、木馬を飛び越えようと手をかけた。けれども、次の瞬間に木馬は木馬でも馬でもなくあたたかい獣だった。そして、獣の背は、鋼鉄の棘で覆われていた。流血と悲鳴の中で、少年は振り落とされた。

「わるい夢を見たのね」
不自然に傾いた少年の体を、母は抱きかかえて直した。
ベッドから落ちた布団を拾って、再びかけた。

「助けてくれたの?」
「死んだら夢の中には戻れないのよ」
ベッドに横たわる少年を覗き込むように、女は言った。
どっさりと盛られたいちごを、少年の頭の横に置いた。地の奥の意思のように赤い。
「私の名前はユキ」
少年が最初に見た時よりも、ユキは、随分と小さくなっていた。
いちごの上にミルクを注ぐ。それを見ているうちに、少年は夢見心地になった。

「いつになったら目を覚ますのかしら?」
母は、心配そうに少年の顔を覗き込んだ。
ほんの一瞬、少年の口が誰かと会話するように動いた。

ユキは、少年に本を読んで聞かせた。
「昔々、あるところに役人の村がありました。およそ千人の村でした。
その隣には仙人の村があり、およそ百人の仙人が住んでいました。
けれども、その隣にも村があったのでした。
隣の村は、100年に一度の不幸に100回続けて襲われて、村人たちは元気がありませんでした。
だから村の若者たちは、次々とボート化して海へ出て行きました。
その頃、村長さんは家でゆっくりと年賀状を書いていました。」
「ごめん。寝てた。
せっかく、読んでくれていたのに」
「いいのよ。また戻ればいいんだから」
ユキは、明るい声で言った。
そうして何度か、物語の中を行き来して、その度ユキは繰り返した。
「いいのよ。何度でも戻ればいいんだから。
憶えているところまで」
ユキは、本を決して閉じることはなかった。
「新しい年が明けると、隣の村を次々と不幸が襲いました。
人々は必死になって豆をかき集めました。
なんとしても生きなければならなかったからです。」
夢の向こうの少年に向かって、読み続けた。

「食べなきゃダメよ」
いちごを抱えた女が繰り返していた。少年の母だった。
「食べなきゃ治らないんだから」

少年もボートになり、気まぐれな若さと情熱の赴くままに旅立った。
ユキはオールとなってボートを操った。終わりのない夜の中を、空っぽのボートは月を追いかけて進んだ。狂った波に呑み込まれて唯一の月を見失うたびに、ユキは完全なる占い師のように少年に月の居場所を思い出させた。
「なんでキミは優しいの?」
「あなたが望んだ世界だからよ」
「僕と、ずっと一緒にいてほしい」
「私は何も残せないわ。なぜなら……」
月が巨大な梨のように艶やかに、今にもそれは落ちそうに近づいていた。海はその迫力に押されて静まり返り、波打つことさえ忘れて、ゆっくりと服従の時を待っているようだった。時の流れを教えるように、灰色の雲が忙しなく動く。
いつの間にか、ボートの上には一匹の黒猫が住みついており、梨の白さにじっと目を見開いていた。
「キミのいない世界なんて」
「私のいる世界は幻よ」
猫の瞳に吸い込まれて、月は消えてしまった。

「すっかり熱も下がったようね」
「明日は、もう大丈夫ね」念を押すように母が言った。
少年は、力なく頷きベッドに潜り込んだ。

「キミのいる世界が幻なら
僕は幻の中で生きたいと願う」
「本当の願いは、消えた瞬間に叶うものよ」
「また逢えるよね」
「本当の世界が、あなたを待っているわ」
「だめだ。行かないで。僕はまだ病気だ」
「いいえ、あなたはもう大丈夫」



  *

長い休みを終えて、少年は家を出た。
今まで何度も通ってきた道だったが、どうしても思い出すことができなかった。
学校に行く途中、少年は迷い道に入り込んでしまった。

「こっちだよ」

猫は、ずっと少年を見つめていた。
少年の夢も知っていたし、少年をユキの元へ案内することもできたのだ。

「こっちだよ」

けれども、少年は猫の言うことに耳を貸そうとはしなかった。
それどころか太陽に向かって、今後の行き先を相談していたのだ。
猫は、歌い出したい気持ちになった。


雲は雲と集まって
ささやきあった
けれど言葉は生まれない

あんたとこおいで
もっといっぱい
つれておいで

けれど言葉は
まだ生まれない

ゆらゆら風の
メッセージ

友と友と落ち合って
ひさびさあった
けれど言葉は生まれない

あんたとおもって
もっといっぱい
つけておいて

されど言葉は
まだ生まれない

ひらひら雪の
メッセージ

雲と友は似ていると
春風が吹いたら
もっともそれは
本当らしいね

どうやらね

がやがやね


少年は、少年の道を歩いて行った。
猫は、もう少年に干渉することをやめた。
新しい歌を、また歌い始めた。


あの道この道
どこまでも

続いていくのは
道だから

キミは僕より
道を選ぶ

一度だって
振り向かないのは
ずっと前を見ているから

だけど雲は知っている
見送る瞳があったこと

どの道キミは
行くのだろう

去っていくのは
人だから

キミは愛より
道を選ぶ

ひとときさえ
キミ止まらなかった
止まらなかったもう

だけど雲は知っている
見送る瞳で踊ったもの

雲は雲と集まって
ささやきあった
けれど言葉は生まれない

雲と友は似ていると
春風が吹いたら
もっともそれは
もっともらしいね

どうやらね

がやがやね


猫は、歌いながら、自分の歌声に聴き入っていた。
そして、気がつくと意識のない世界の中に入っていた。
猫の歌を、雨がしっとりと引き継いだ。



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緑あふれる

2009-02-04 00:59:41 | 猫の瞳で雨は踊る
男は、新年のあいさつをしたくないのでしばらくの間山にこもっていた。
もうそろそろかと思い山を下りると、男は久しぶりに会議室に顔を出して、おはようと大きな声で言ったが人々はみな無反応だった。ほとんどの者は男が訪れたことにさえ、まるで気がついていないような様子だった。
男はふてくされたままパソコンのスイッチを入れた。画面が瞬間、反応を示す。デスクトップには体を張る大久保選手の姿が現れる。緑色のアイコンは、すべてそのユニフォームに吸収されて曖昧な状態になっていた。

その様子を、猫はすべて見ていた。
なぜなら猫は、どこにでもいたからだ。山の奥にもいたし、海の向こうにもいたし、会議室にも勿論いたからだ。
以下は、猫の見解である。
おそらく男が山にこもっている間に、世界は大きく変動しそのため言葉も大きく変わったため「おはよう」という言葉はなくなってしまったに違いない。
そして、会議室には少しだけ緑が増えていて、それは世界にとってもよいことである。
猫の目が、深い森のように光る。
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