列車が動き出すのを待って本を開くと活字と風景が同時に流れ出す。いつも結末は終点に間に合わないためいつまでも物語は同じ道筋を繰り返し辿るだけだった。「しおりなさい」ある時、駅長さんが本を傷つけずに印を残す紙切れをくれた。「ありがとう」それは新しい旅の切符だった。 #twnovel
テーブルの上にはフランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語、様々な言葉が飾られていて、「さあ、どれでもあなたは好きに口にすることができるのよ。」けれども、こんなにたくさん並んだテーブルを見るのは彼は初めてだった。うれしさと戸惑いが交錯して、まだ手を伸ばせない。 #twnovel
何年振りのことか60Wの電球が、突然切れた。オンになったスイッチと暗い部屋の中を照らし合わせて確信を持ちながら、その一瞬前に微かに聞いたかもしれない特別な音の記憶は揺らいだままだった。首都トリポリを支配下に置いた反政府勢力は、カダフィ大佐の拠点を制圧し終えた。 #twnovel
雲の下の人を見下ろし「俺たちも早くメジャーに上がりたいな」と落ちるのを中断していた雨粒はつぶやいた。「試合が終わることを待ってるくせに」もう一粒が応戦する。九回裏アスレチックス松井が待望のさよならホームランを打つと、それをサインに雨たちは地上に向かって降りた。 #twnovel
道を歩いているとセブンイレブンを見つけた。フランスパンの端から端まで歩いて行くと冷凍庫があって、中にたこやきを見つけて取り出した。観察した後、元に戻して扉を閉めるとすっかり雲って中の様子は見えなくなった。「お見送りの方はお下がりください」店員さんの声が聞こえた。 #twnovel
ゆっくり歩こう。吊橋の上を牛が渡るように、少しも進んでいないように見える足取りで投票箱へ向かう我々を人々が見守る。ゆっくりと開こう。一夏を費やして朝顔が花開くように、あたかも時間が止まっているように見える慎重さで一枚の紙に触れる指先を、人々が我慢強く見つめる。 #twnovel
在庫を抱える必要から解放された町には銀行も図書館もなくなって、ゆとりと自然の増えた散歩道をいつものように全力で駆け抜けた男は、家に着くと早速シャワーのスイッチを入れる。頭を差し出すとインターネットから直接シャンプーが注がれる。男は昨日、単身越してきたところだ。 #twnovel