眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

模様替え

2013-04-25 01:12:30 | 夢追い
 キンクスもストーンズもおしゃべりに呑み尽されてしまう、すべては人が多すぎるのがいけないのだ。こんな落ち着かないフロアはもううんざりだった。逃げるようにエレベーターに乗り込んだ。
「焼肉に行こうか」
 餃子は終わったしと男は言った。一度エレベーターに乗り合わせたくらいで、一緒に行くのは気が引けた。こちらの心を読まれているようで気色が悪く、色々と理屈をつけて三階に戻ることにした。フロアに戻るとあれほど密集状態にあった席が減っていた。テーブルとテーブルの間が五メートル以上も離れているし(これならいい)、ロックからクラシックに音楽も変わっていた(これはどうだろう)。店のコンセプトが突然変わってしまった。
「窓を開けて、明細を届けるように言って!」
 一階の従業員に伝えるようにと女社長の指示が飛ぶ。
「僕、行って来ます」
 大声を出すのは面倒だったし、会って伝える方が確実だ。エレベーターまで行くとちょうど花嫁が乗り込むところだったので遠慮して、階段で行くことにした。

 下では兄が冷蔵庫を組み立てていた。
「どうするんだ?」
 途中までやって僕に訊いてくる。
(わかりもしないのに組み立てて!)
 小さな部品を組み合わせて、火柱が立った。
(それでどうするんだ!)
「消そうよ」
 先行きが心配になり、提案した。
「まだ途中だぞ」
 やり始めたら最後までやり遂げたいということらしい。
「ここは組み立てるには狭すぎる」
「確かにそうだな」
 鋭いところを突けてほっとした。
 炬燵の上で、兄はふーっと吹いて火柱を消した。もう一度、吹いて種火も消した。吹くくらいで消えてくれたので、またほっとした。火が立っていた鉄板が、冬の朝の道のように濡れて見えた。触ってみようと思ったが、熱いかもしれないと思いとどまった。
 まずは古い冷蔵庫を捨ててからにしようとついでに提案した。
「そうするか」
 広い場所に移ってやれば、すべては上手くいくような気がした。

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雲の向こう

2013-04-25 00:44:01 | リトル・メルヘン
 時々振り返っては誰かが追いついてくるのを待っている。すっかり慣れているのか、女の子はヘルメットも被っていない。その速さでは、なかなか追いつくことは難しいだろう。滅多に車の通らない裏通りだった。空いっぱいに広がる白い帯に目を奪われながら歩いていると、急に止まった女の子とぶつかりそうになって、慌てて道の反対側に歩いた。彼女は一輪車を降りて身を乗り出すと、橋の下を覗き込んでいた。そうして川を眺めながら、大人たちが追いつくまで待つことに決めたようだった。

 歩道の真ん中で腰を落とす犬の影が見えた。飼い主が後始末をしている横を通り過ぎる。散歩する犬と飼主を、今日だけでも何組も見かけたが、つい先ほども腰を落とし留まる犬を見たばかりで、今日は何か特別な夜なのかもしれないと思った。
 歩道の端をスケボーに乗った男の子がゆっくりと通り抜けて行った。慎重にバランスを取りながら、まだ不慣れなのか体に小さな鞄を巻いた少年はゆっくりと私を追い抜いて進んでいく。その影はどこか、舞台を横切っていく坂田師匠を思わせた。
 横断歩道を渡った先に、まだ少年はいた。時々降りて、足元を確かめてから、また進み出す。相変わらずゆっくりと歩道の端を微妙にぶれながら進んでいく。常に少し先を行く少年は、私を先導し続け、私は決して彼を追い抜くことはできない。少年は次第に遠ざかっていくが、横断歩道に差し掛かったところでいつも追いついた。

 大きな交差点に差し掛かった時、少年はいなかった。右を見ても左を見ても少年はいない。横断歩道を渡ったところで、もう一度、辺りを見回した。もしかしたら、少し先を行っているのかもしれない。けれども、どこにも少年の姿はなかった。
 闇が覆った後でも、飛行機雲は、まだ空いっぱいに白く広がっている。
 その最先端に、少年はいるのだ。

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