眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

積み上げ作業

2013-07-16 17:31:45 | 夢追い
「今日はたくさんやることがありますよ」
 それというのも3年分がまとめてやってきたというように、飴玉が大量に入荷したからだった。
「店長、品出しは悪ですよ。店が汚れます」
 堂々と自分の意見を言って、飴玉袋を積み上げた。古い飴玉袋を手前に運び、新しい飴玉を奥へと追いやる一貫的な作業。それもこれも古い飴玉を早々と人々の口に放り込み、新しくやってきた飴玉を人目につかないような場所に隠しておくためだった。そうした作業を怠ってしまっては、たとえ飴玉と言えども新しく作られた飴玉ばかりが人々の口に入り、古い飴玉はどんどん古くなるばかりで、いつの日か食べることを禁じられた飴玉に成り下がってしまうことが懸念されるためだった。積み上げた飴袋の数によって、収入が決まるのではなく、積み上げるために縛られた時間によってのみ決まるのだから、作業を急ぐことは飛んだ愚か者のすることだった。ゆっくりと着実に作業に集中していると飴棚の下から見覚えのある黒いTシャツが出てきた。数年前に着ていたものだったが、まだ着れるだろうか。
「時間が空いたので地下のバーに行ってきます」
 従業員の1人が店長に報告して作業を抜けた。そんなところを見ても、人が余っているという状況がわかる。彼はいつだって、1日中酒を飲んでいて、朝刊が届いた時などには配達員を捕まえては大騒ぎをするので、いい近所迷惑になっているという男だった。いくらゆっくり作業したところで、結局は終わってしまい、僕も抜け出して神社の階段を駆け上がった。

「みんな走りに行ったの?」
 向こうから気づかれるのが嫌で、屋根の上から声をかけた。
「女子だけ」
 屋根の上で休んでいると神社の人に見つかって、注意されてしまう。
「休むならあっちで」
 男が指差す方向は、バーのカウンターを抜けた向こう側の広場だった。酔っ払いたちの背中を通過していくしかないとは、何という構造的な欠陥だろうか。忠告を無視して大回りすると、滑り台を滑って広場に降り立った。勢い余って、肘を強打しそうになるが、咄嗟に重力をコントロールして事なきを得た。店長は大丈夫だろうか……。

 置いてきた店長のことが思い出されて、神社を駆け下りると浮遊した。腕を使いスピードを調整するが、飴玉作業の疲れが残っていて難しい。速過ぎる。このまま行くと海を越えてしまう。着陸した場所はギャンブル場の前で、カップ酒を手にした男たちが黒い煙を吐いていた。
「外科医が15万出したらしいぞ」
「100万積んだかもよ。外科医なんだから!」
 通りすがりに余計な口を挟むと、もう浮けなくなっていた。何度やっても離陸できず、ちょうど縄跳びの練習をしている時の気分を思い出した。
「ちょっと手伝ってやろう」
 見知らぬ男に抱えられて浮き上がるところを助けてもらい、どうにか地上を離れることができた。ふわふわと頼りなく、早くこの場所を離れたいのに、体は思うように重力をコントロールできなかった。また、パワーが切れたのか。これでは小学生の操る虫取り網にも、軽々と捕まってしまうだろう。落ちるにしても、誰にも見えなくなってから落ちたいと思った。店はどこだったか……。
「ありがとう!」
 強がって大きな声を出すと、少しだけ浮力が蘇った気がした。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする