眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

100万円ソング 

2019-01-21 18:55:28 | 夢追い
「もう終わったの?」
 突然思い出してはっとした。ちゃんと歌えば100万円。課外授業の途中に知った企画だった。先生にそんな余り金があったとは。「まだだよ」間に合ったか。彼はギターが弾ける。コンビ結成を持ちかけるとあっさりと話はまとまった。たいして仲良くもないその場限りの2人。彼に弾けて僕に歌える歌が求められた。どちらもちゃんと。「これで行く」アイデアではない。ギタリストはもう曲を決めてしまった。決断が早い。エントリーを済まして彼は黙々と弦に向いていた。相談も打ち合わせもない。他人は他人というわけだ。何だこの歌。みんな英詞じゃないか。適当に歌ってやる。適当な替え歌を作って歌ってやるぞ。どうせみんな知らないんだから。上手げに歌えばいいんだ。
 もうコンテストが始まっていた。みんな座って歌うのか。先生も、弾く人も、歌う人も、聴く人も、みんな座っているのが見えた。(ああいう感じか)想像していたのと随分違っている。あのまとまった空間ですべてが簡単に決まってしまうのだ。僕らの出番はラストだった。適当な歌を考えながら、自信が吸い取られていくように思えた。譜面を手にしながら、何も見えていなかった。誰も知らない歌、デタラメの歌……。いったい何が受け入れられるというのか。後悔とプレッシャーに押しつぶされそうだ。手も膝も他にもどこかわからない場所が、震えている。恐怖が共鳴してもう倒れそうだ。歌が終わる。乾いた拍手。指先の口笛。人気のコンビだったようだ。僕らの番は次の次だ。拍手が鳴り止むと同時にほとんどの人が席を立った。みんな終わったというように歩き出している。あれっ。急に現実を見たような気がした。
「やめようか」
 相棒はあっさりと頷いた。
 歩きながら先生にキャンセルの合図を送った。コンビを解いて先を行く人々に追いつかないようにゆっくりと歩いた。すっかり失望していた。思いつきのような企画に、見届けずに帰る人々に、勝手に曲を決めた相棒に、軽く乗り出した自分に、やり遂げない自分に、くだらない一日に……。(もっと学ぶべきことがある)河川敷を通りかかると裸の男が大きな声で愛を叫んでいた。人か魚へかわからない。わかりますよ。駆け寄って共感は示せないけど、そんなこともあるね。工事のため前方の道が塞がっていた。思い詰めていたせいか、迂回ルートは見えない。行かないと。
 中華料理屋を突破するしか道はない。扉を開け奥へ進んだ。そのままの勢いで浮遊して座敷へと突っ込んだ。淀んだ空気抵抗。宴会か。靴紐が小皿に垂れて接触しないように細心の注意を払う。「君は何だね」幹事風の男の眼鏡が光った。「前の道が通れないんですよ」事情を説明するが理解された様子はない。チャーハンが油を含んだまま不安げに固まっている。箸やグラスを持つ人々もざわついている。「それにしても危ないじゃないか!」だから、前が通れないんだって。こちらは重力と戦いながら進んでいるのに、横からごちゃごちゃ言われたら余計に危ないじゃないか。「本当に通れないのかね」幹事長は席を立った。表に出て確かめるようだ。また、失望をくれるのか。(好きにしてくれ)もう少し、あと少し。よーし、抜けた! 座敷を抜けて中華料理屋を抜けて工事中の道を抜けて、公園通りに出た。薄い明かりの中で桜が咲いているが見えた。早いな。


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スパイシーデー(折句)

2019-01-21 12:02:37 | 短歌/折句/あいうえお作文
あらん限
りに振り絞り
くわされた
わさびのような
スパイシーデー

「アリクワズ」


頭から
妙に毛羽立つ
シャツを着て
破れかぶれの
カレーうどんを

「あみじゃが」


語るには
肩身の狭い
身の上を
一層茶化し
ショー化した冬

「鏡石」


ふふふふふ
つとめて笑え
遠き日の
メインディッシュは
鯖の缶詰

「フットメザ」
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