「君は乗らないの?」
「どうして?」
「みんな並んでるよ」
「僕は背が高すぎるんだ」
「そうは見えないけど」
「外からは見えないこともあるよ」
「ここで本を読んでるの?」
「そうだけど」
「石の上は硬くない?」
「別に」
「浮かれた人がたくさんいるよ」
「浮かれた人の隅っこは意外に落ち着くんだ」
「今しかできないことをしようとは思わないの?」
「例えば?」
「みんなと楽しい思い出を作るとか」
「ごちゃごちゃしたとこは楽しくない」
「その本の中は違うの?」
「文字は別だよ」
「どうして別なの?」
「密にならなきゃ意味にならないでしょ」
「人より文字が好きなの?」
「まあそういうことかな」
「ずっとそうしていて退屈じゃないの?」
「人といるよりはね」
「いつも独りでいるの?」
「自然にしてるだけ」
「人間を避けているの?」
「疎ましい時にはそうかもね」
「人間嫌いなんだ」
「どうかな」
「本は特別なの?」
「何が?」
「それも人から生じたものでしょ」
「それが何?」
「矛盾は感じないの?」
「何の矛盾?」
「登場人物に寄り添うことに」
「架空の人は別じゃない。あと人だけじゃないよ」
「猫とか虫とか?」
「妖怪とか人魚もいるよ」
「それだって擬人化されてるでしょ」
「だから何なの」
「じゃあ作者はどう? 作者は完全に人間でしょ」
「作者はあとがきまで出てこないから」
「都合がいいんだね」
「何のこと?」
「登場人物が勝手に動き回ってると思うんだ」
「だって物語だから」
「後ろにいる作者を忘れられるんだね」
「よくわからないよ」
「どんな話?」
「人が出てきてだんだん消えて行くの」
「じゃあ私と一緒だ」
「えっ?」
「君は3年生?」
「もうすぐ4年だけどね」
「じゃあもっと冒険しなくちゃ」
「この中でもうしてるよ」
「そうか」
「おじさんは?」
「お化け屋敷から追い出されちゃってね」
「そうなんだ」
「本物は駄目なんだってさ」
「へー、どこが本物なの?」
「さあな。自分がわかってるってことかな」
「そう。これからどうするの?」
「他でもまわってみるとするか」
「おじさん。きっと必要とされるとこがあるよ」
「そうかな」
「多様性が必要なんだって」
「本に書いてあるのか?」
「違うよ。一般論だよ」
「そうか。じゃあまたどこかのアトラクションで」
「じゃあね」
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」