眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

初心

2021-04-13 17:49:00 | ナノノベル
「そんなお菓子みたいな文鎮で最後まで書き切ることができるかな。石ならばともかく……」
 風は小馬鹿にしたように吹いた。
 たかがそよ風くらいのことと私は甘く見ていた。3文字目まで書き終えたところ波は強まって、あと少しというところで浚われてしまった。
 もう1つ……。
 私は文鎮をもう1つ加えて書くことにした。

「そんなお菓子みたいなものいくつ重ねても無駄さ」

 またしても風は小馬鹿にしたように吹いていた。
 そんなことはないさ。重さが倍ならば余裕で勝てるはず。たかがそよ風くらいのものなのだから。一から始め自信を持って書いていく。4文字目の糸へとつながるところで波は強まって、既に重ねた文鎮は浮き始めていた。
(風じゃない。もっと見えない力が働いているのか)
 私は負けた。あっけなく紙は飛ばされてしまう。
「そんなお菓子みたいなもの……」
 それは本当だった。いくつ重ねても最後には浚われてしまう。私はずっと打ち勝つことができなかった。


「成果はどうだ?」
 師匠が喫茶店から帰ってきた。
「最後まで書き切れてません」
 私は手強い風と文鎮について話した。

「文鎮のせいか?」
 見ておくがいい。

 師匠は文鎮1つも置かず堂々と筆を這わせた。まるで何も邪魔者はいないと言わんばかりだった。静寂の中に墨が命を吹き込む。お日様の光が世界を形作る黒さを祝福する。風がやってくる。何度も私を打ち負かした未知の力を引き連れて。庭の落ち葉が騒ぐ。猫があくびする。師匠の長髪が竜のように遊んでいる。筆は動じない。書は最後まで浚われることはなかった。

…… 『 初 心 』 ……

「書き切るのは意志なのじゃ」

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【創作note】角度のないところからシュートが決まるか

2021-04-13 10:59:00 | 【創作note】
 やるしかないのにやる気が起きない時に、みんなどうしているのかと思う。どうにかこうにかやっていくに違いないのだろう。
 駄目な時は本当に駄目で、Pomeraを開いたとしても、先にPomeraが眠るか僕が眠ってしまうかという有様だ。

 コーヒーを買いました。いつもよりもできあがりが早く感じたのは、いつもよりもよそ見を多くしていたかもしれません。お元気ですか。僕は元気です。

 紙コップを傾けても唇にコーヒーが届かない。いつもと同じような角度まで傾けてそろそろ熱いぞと覚悟を決めても、少しもコーヒーが現れない。もしかして、店員さん、コーヒーを入れ忘れたのではないだろうか。
 いつもより少し余計に傾けると、ようやくコーヒーが出てきてくれて、杞憂は消え去っていった。ほんの気持ち、量が少ないのでは? そのせいか、今日のコーヒーはいつもより少しマイルドで美味しく感じられるのだった。

 春も暖かくなってきました。お気に入りのシャツを羽織って少し出かけてみてはいかがでしょうか。

 僕は角度のないところからシュートを決められる人になりたい。
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