インタビューは電車が止まっている僅かな時間の中で行われた。とても時間がないからだ。
「いつもどんな時にアイデアが浮かぶのですか?」
「わからない。浮かぶよりも早く消えている」
「瞬間的にキャッチするような感じでしょうか?」
「モチーフに追いかけられている」
「どんな感じでしょうか?」
「浮かんではつかむ。つかんでも安泰じゃない」
「逃げてしまうからでしょうか?」
「いつまでもそこにいてくれないからだ」
「しっかり捕まえておかないといけないんですね」
「時間がない。書き出さなければ消えてしまう」
作者はそわそわしているようにみえた。
「では、最後に一つだけ」
「ああ浮かぶ。あっ、消えた」
「あと一つ」
「あれあれ? 何だっけ?」
「目指すべきゴールみたいなものはありますか?」
「出発だ」
「ないんでしょうか?」
「書き尽くすことはない」
発車のベルが鳴り始めた。
「やはり人生は短いから?」
「私が永遠ではないからだ」
ドアが閉まった。
「なるほど」
電車は作者一人だけを乗せて動き始めた。他人の同乗は認められない。深い闇を突き抜けて自分だけの異世界へと飛翔する。先頭車両の後ろには幾つかのモチーフのようなものが連なってみえた。
「あっ、消えた」