美濃の囲いは長く憧れの的であった。振り飛車の美学は、美濃の美しさに重ね見ることができた。左美濃、天守閣美濃、居飛車の美濃は振り飛車の美濃を真似たものだった。美濃から高美濃、高美濃から銀冠へと発展させて行くことも、振り飛車のよき伝統であった。
今、美濃の銀がいた場所に玉がいる。玉が入城すべき場所に銀がいる。(あろうことか壁銀の悪形だ)早々と桂を跳ね出すのは、桂のいた場所に玉を潜り込ませる狙いである。美濃より低い姿勢に玉を囲うのは、速攻からくる玉頭への反動を軽減するためだという。
「桂馬の高跳び歩の餌食」
かつてはそんな格言もあったはず。悪手の代表とされるような筋が、現代将棋の最先端を行っている。
「捨ててこそ生きる」
桂を早く前に出すために。振り飛車の囲いも変わりつつある。
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美濃よりも粗末な城でさばき合う
座布団高く一手入魂
(折句「ミソサザイ」短歌)