眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

猫たちの完全支配

2023-08-01 12:10:00 | アクロスティック・ライフ
この街ときたら
どこにでも猫がいるんだ
もう落ち葉の数よりも多く
のびしろは見通せないほど
ひっきりなしに現れるんだ


紅茶の美味しい玩具屋さんの前に
扉の堅い倉庫の前に
モナ王の行った空き箱の中に
農具を立てかけた車庫の陰に
ヒトデを飾るショーウィンドウの中に


小松菜をくわえた猫
トマトをくわえた猫
モナ王をくわえた猫
野バラをくわえて笑う猫
干物をくわえた猫


米粒を拾う雀の隣に
峠を越えた勇者の向こうに
模型を作った作者の手先に
のりで語った夢の切れ端に
卑屈になった王の肩に


駒犬の間に寝そべる猫
土星帽を被って気取る猫
盛りつけ皿を回す猫
のびるチーズに慌てる猫
羊の列を横切る猫


孤独を指した矢印の先に
トカゲを追ったネズミの後に
モスカを切った貴婦人の次に
ノーゴールとぬか喜びの続きに
ヒントを求める解答者の袖に


コーラの泡をつけた猫
どら焼きに乗った猫
尤もらしい顔した猫
ノックを聞き分ける猫
ひな壇を駆け上がる猫


黄砂を避ける地下への階段に
とろりとなった白身の内に
黙して語る賢者の胸に
のこのことくる村人の足下に
ひっくり返った亀のお腹に


小物入れに隠れた猫
ドリルの山に見入る猫
文字起こしに加担しない猫
能ある鷹の爪を噛む猫
光と影に馴染む猫


こちらかと思えばあちらの方へ
ドル箱だったモールの駐輪場に
モータープール生まれの猫が
脳波をたどる波形の凹みに
百のライセンスを持つ猫が


困った人に寄り添う猫が
途方に暮れた人を案じる猫が
もやもやした人につっこむ猫が
呪われた人を憐れむ猫が
日に日に沈んでいく人を見届ける猫が


こちらかと思えばまたあちらの方へ
道化に変わる鏡の前に
もずくをつつくしずくの猫が
濃霧を抜けた悪夢の果てに
秘蔵のたれをつけすぎた猫が


この街の要職は猫に占められている
どうしてかと聞く人がいても
もう答えられるような者はいない
農民も殿様も主役の座を保てはしない
人は誰しも猫に食われてしまうのだから

コメント
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