この街ときたら
どこにでも猫がいるんだ
もう落ち葉の数よりも多く
のびしろは見通せないほど
ひっきりなしに現れるんだ
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紅茶の美味しい玩具屋さんの前に
扉の堅い倉庫の前に
モナ王の行った空き箱の中に
農具を立てかけた車庫の陰に
ヒトデを飾るショーウィンドウの中に
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小松菜をくわえた猫
トマトをくわえた猫
モナ王をくわえた猫
野バラをくわえて笑う猫
干物をくわえた猫
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米粒を拾う雀の隣に
峠を越えた勇者の向こうに
模型を作った作者の手先に
のりで語った夢の切れ端に
卑屈になった王の肩に
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駒犬の間に寝そべる猫
土星帽を被って気取る猫
盛りつけ皿を回す猫
のびるチーズに慌てる猫
羊の列を横切る猫
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孤独を指した矢印の先に
トカゲを追ったネズミの後に
モスカを切った貴婦人の次に
ノーゴールとぬか喜びの続きに
ヒントを求める解答者の袖に
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コーラの泡をつけた猫
どら焼きに乗った猫
尤もらしい顔した猫
ノックを聞き分ける猫
ひな壇を駆け上がる猫
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黄砂を避ける地下への階段に
とろりとなった白身の内に
黙して語る賢者の胸に
のこのことくる村人の足下に
ひっくり返った亀のお腹に
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小物入れに隠れた猫
ドリルの山に見入る猫
文字起こしに加担しない猫
能ある鷹の爪を噛む猫
光と影に馴染む猫
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こちらかと思えばあちらの方へ
ドル箱だったモールの駐輪場に
モータープール生まれの猫が
脳波をたどる波形の凹みに
百のライセンスを持つ猫が
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困った人に寄り添う猫が
途方に暮れた人を案じる猫が
もやもやした人につっこむ猫が
呪われた人を憐れむ猫が
日に日に沈んでいく人を見届ける猫が
・
こちらかと思えばまたあちらの方へ
道化に変わる鏡の前に
もずくをつつくしずくの猫が
濃霧を抜けた悪夢の果てに
秘蔵のたれをつけすぎた猫が
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この街の要職は猫に占められている
どうしてかと聞く人がいても
もう答えられるような者はいない
農民も殿様も主役の座を保てはしない
人は誰しも猫に食われてしまうのだから