眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

親切な大人

2023-10-31 21:38:00 | 眠れない夜に
 眠れない夜は子供にかえる。先生は一人だけだった。初めて名前を呼んでくれた。初めて丸をつけ、ほめてくれた。山の描き方、海のみつめ方、お茶の飲み方、雪の投げ方。先生から学べることは全部学び取った。先生は急に遠くに行くという。送別会には出なかった。みんなの先生だと証明されることに、耐えきれなかったのだ。「困ったら開きなさい」先生は別れの手紙をくれた。もう誰も先生じゃない。
 街にサーカス団がやってくる。僕はまだ子供だった。待ち切れずにすべての責任を手放したいと思った。先生の手紙には、よいことは寝て待てとだけ書いてあった。僕は先生のことを信頼した。送別会のことを、少し後悔していた。夢の終わり、街は祭りのあとだった。感動と興奮の余韻、サーカス団への感謝の言葉であふれていた。また会える日まで。絶対、また来てね! またねじゃない。酷い仕打ちは、この世に信頼できる者の不在を強く印象づけた。大人になるにつれて先に楽しいことなど何もなく、もう眠れないことがわかってきた。


テレビを消して
自分を立ち上げろ

それが映し出すもの
スキャンダル
反撃しないもの
弱ったもの
興味本位のもの

動画を消して
自分で動き出せ

それが映さないもの
強すぎるもの
不都合なもの
本当に救いが必要なもの

偉そうなのが横並ぶ
それは正義を代弁しない

お約束の小芝居に
薄っぺらい長話

延々繰り返して広告をまたぐ

断ち切れない
忖度が
真実に蓋をする

テレビを捨てて
自分で考えろ

みればみるほど
それは空っぽだ


 落書きだらけのシャッターを背に歌う路上詩人の前を通り過ぎた。スーパーは深夜まで開いている。広い通路の真ん中に積まれたお菓子の1つを手に取ってカートに入れた。先に進もうとすると男が手を取って止めた。1つ買うのは大損だと言う。大人なら2つ買わねば小腹も満たされないと言う。男の説明によると店内にあるすべての商品は、値上げしながら同時に中身が萎んでいるということだ。

「値段は倍、中身は昔の半分ですから」

「奇妙な話ですね」

 小腹が空いても大丈夫なようにお菓子を多めに詰め込んだ。必要なものをカートに入れてレジに向かう。有人レジだ。

「こちらはおひとりさま1日1回1本限りとなっております」

「は? 今日初めてですけど」

「ですがAI診断によると……」

 警備員が駆けつけて、カートは回収されてしまった。

「こちらへ」

 店長室にかけていたのは、先ほど色々教えてくれた男だった。

「店長さんでしたか」

「申し訳ないのですが、ビデオの方を……」

 映っているのは、確かに自分そっくりの男だった。午前中に来店しているらしい。

「利き腕が違う! 髪型も逆じゃないか!」

 重大な差異を指摘すると店長は非を認めた。

「これは大変失礼いたしました」

「いえいえ。間違えるのも無理はありません」

「アップデートによって改善いたします。お詫びと言っては何ですが……」

「ありがとうございます!」

 少しの足止めと引き替えに、ヤクルト80006本セットを手に入れることができた。スーパーから離れるほど街灯も減り闇が濃くなっていく。錆びついたシャッターを震わせながら、路上詩人が歌っている。針金のような猫がその傍で足を止めた。


俺の名前を知ってるか
俺の名前は名無しのジョニー

俺のすみかを知ってるか
俺のすみかは田舎のどこか

俺の涙を知ってるか
俺の涙は夕暮れの色

看板にある字が読めずに
頼めなかった飯があるかい
それは何ですか
何て読みますか
それを言うのはダサいと思った

君にも似たことがあるかい
教えてよ 君のアンサーソング

俺のかなしみを知ってるかい
俺のかなしみは俺のかなしみ

俺の歩きを知ってるかい
俺の歩きを道が知ってる

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矛盾のパレード

2023-10-31 03:30:00 | アクロスティック・ライフ
何なんだよここは
つまんないけど罪ではない
やがてくるのは永遠への旅か
筋書きが決定事項ならば
見所はどこに存在する


涙は出るがハンカチがない
角はあるけど赤鬼じゃない
山に叫んでも響きはない
すり切れても血は流れない
未練があっても言葉が出ない


名を呼ばれても私ではない
釣ってはないが釣り人だ
やまだと言うが電気じゃない
相撲を取っても廻しが取れない
見つめていても答えが出ない


長くはいるがボスではない
罪はあっても裁く手がない
屋台があっても金が足りない
住まいを探して迷子になった
ミイラを追って未来まできた


謎がとけても爽快じゃない
ツアーを導くものがいない
山があっても心は谷間
推薦されても門は閉じてる
水を打ったらお祭り騒ぎ


波があっても乗り物がない
月が割れても兎は出ない
野菜を取ってもバランスが取れない
西瓜を割っても腹が読めない
みんないるのに誰も知らない


何なんだよこの世界
辻褄が合わないばかり
やんなっちゃうよねもう
するめを噛んだら味気なく
認め印でも持ってこいってね

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