18時、外に出るともう夜だった。夏が終わったことが明らかになった。自転車は壁にもたれて錆びついていた。動いたとしても歩く方が気楽だった。傷つくよりも傷つける方が遙かに恐ろしいからだ。2.8キロの道程を、僕は40分ほどかけて歩いた。真夏に歩くとたどり着いた時の温度差に泣かされる。ようやく、歩きやすい季節が訪れた。
「砂糖とミルクはお使いですか?」
半年経つと、店の様子も何か変わっていることがある。フォークやマドラーは以前と同じでカウンターの横にあるのに、砂糖などはなくなっている。注文した商品とは関係なく、根こそぎ持って行く者がいたのだろうか。前は砂糖にも種類があって、僕はライトシュガーを好んでいたが、今はもうなくなったのだろう。
たどり着いたことに満足して、僕はコーヒーを飲んだ。店の入り口は広く、天井も高い。ここに来ると不思議と心が落ち着く。あと90分はゆっくりすることができるだろうか。少し暑くなって、袖のボタンを外した。左は上手く外れたが、右は途中で糸が引っかかってしまったようだ。無理に力を加えると取れてしまうかもしれない。七分袖のボタンなど、なくても別によいと思えて、取れることはそう心配でもなかった。
しばらくして落ち着くと、少し冷えてきた。まだ冷房が効いているのかもしれない。僕はボタンを留め直した。傍にある玄関マットに1本の糸くずのようなものが付着しているのが見えた。西の出入り口には置いていないのに、どうして北側だけマットがあるのだろう。こちらの方が、より外とダイレクトにつながっていて、ゴミやほこりが紛れ込みやすいためだろうか。
「こっちもあるよ!」
あるいは、人々に扉の存在を知らせる意図もあるかもしれない。
マットの色は、僕のシャツよりも少し色あせた緑だった。