「何か対局者が気にされてますが、これは虫でしょうか。盤の周辺を飛び回っているようです。これは大変な事態となりました。まさかタイトル戦でこのようなことがあるとは。虫対策までは研究が行き届いていなかったということでしょうか。このままでは対局の中止も危ぶまれてしまいますが、先生」
「何をおっしゃる。そんなわけないじゃないですか、田辺さん」
「そうでしょうか」
「そうですよ。虫なんてものは、ほっといたらその内どっか行くんですから。そう大げさに考える必要はないんですよ」
「でも先生、危険な虫だったりすることはないんでしょうか」
「大丈夫です。見たらわかります。あの程度は大した虫ではありません」
「流石は先生。虫の方も大変お詳しいということで」
「やめてください。別に詳しくはないですよ」
「えへへっ、それは大変失礼いたしました」
「見てください。もう落ち着いてきてるでしょう」
「よかったですね。この後も名人戦生中継をお楽しみください」