「立会人の先生が、今慎重に鋏を入れて、封筒から何やら取り出されましたね。これは遠い故郷よりの手紙でしょうか。それをこれから読み上げて、朝の対局室をハートフルな空間へと導くのでしょうか、先生」
「何をわけのわからんことをおっしゃってるんですか。そんなはずないじゃないですか、田辺さん」
「はっ、そうでしょうか」
「ちゃんと説明しますと、あれは封じ手と言いまして、名人の次の一手が入っていて、それを立会人の先生が取り出して読み上げ、そうすることによって名人が次の一手を着手するということです。指されました」
「はい。封じ手は44銀でした」
「これは驚きました。目の覚めるような一手が飛び出しました」
「この手はどういった狙いなのでしょうか?」
「わかりません。さっぱりわかりません」
「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」