空腹時にはスーパーに行かない主義のおばあさんが迷ったのは、目当てだったパン屋が歯科医に姿を変えていたからだった。すぐ隣にあったコンビニは今では高層マンションだ。まるで別の街に来てしまったようだった。歩きすぎてしまったのだろうか。
「今は何年ですか?」
おばあさんは、思わず道行く人にたずねていた。
「3年生!」
少女は得意げに答える。(転校生だった自分となぜか仲良くしてくれたみっちゃんに似てる)おばあさんは少し昔のことを思い出して、西の空を見上げた。
(あったあった)
スーパーはあるべきところにあった。店に入ると中は80年代ディスコのような様子に変わっていた。肉屋の隣にフライコーナーができている。パン粉をつけた椎茸、蓮根、海老、アジフライ、ハムカツ、メンチカツ……。どれもみな美味しげだ。けれども「できあがったものを買うよりは他にできることはないのかしら」とおばあさんは思う。
遠回りしてたどり着いた青果コーナーは空っぽだった。
(また店長が変わったな)
「お待たせいたしました。まもなく東入り口より鈴木さんちのキャベツが入ってまいります。本日は遠方より鈴木さん自らが責任を持って運んでまいりました。どうぞ拍手でお迎えください!」
パチパチパチ♪
三輪車に乗ったおじいさんが、ゆっくりと青果コーナーに向かってくる。あれが鈴木さんだろうか。
パチパチパチ♪
おばあさんもつられて手を叩いた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます