眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

鈴木さんちのキャベツ

2023-07-02 09:09:00 | ナノノベル
 空腹時にはスーパーに行かない主義のおばあさんが迷ったのは、目当てだったパン屋が歯科医に姿を変えていたからだった。すぐ隣にあったコンビニは今では高層マンションだ。まるで別の街に来てしまったようだった。歩きすぎてしまったのだろうか。

「今は何年ですか?」
 おばあさんは、思わず道行く人にたずねていた。

「3年生!」
 少女は得意げに答える。(転校生だった自分となぜか仲良くしてくれたみっちゃんに似てる)おばあさんは少し昔のことを思い出して、西の空を見上げた。

(あったあった)

 スーパーはあるべきところにあった。店に入ると中は80年代ディスコのような様子に変わっていた。肉屋の隣にフライコーナーができている。パン粉をつけた椎茸、蓮根、海老、アジフライ、ハムカツ、メンチカツ……。どれもみな美味しげだ。けれども「できあがったものを買うよりは他にできることはないのかしら」とおばあさんは思う。
 遠回りしてたどり着いた青果コーナーは空っぽだった。

(また店長が変わったな)

「お待たせいたしました。まもなく東入り口より鈴木さんちのキャベツが入ってまいります。本日は遠方より鈴木さん自らが責任を持って運んでまいりました。どうぞ拍手でお迎えください!」

パチパチパチ♪

 三輪車に乗ったおじいさんが、ゆっくりと青果コーナーに向かってくる。あれが鈴木さんだろうか。

パチパチパチ♪

 おばあさんもつられて手を叩いた。


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