包まれたいのか、解かれたいのか、どちらなのか。昨日とは違う今日の中をずっと歩いていた。夕べとは違う朝の中に戸惑い、昼間とは違う夜の中をさまよった。他の人はどう? 丈の長いものを纏う者、まだ広く肌を晒している者。じっと様子をうかがう者、どこまでもしがみつこうとする者。指を絡ませ合っている者、独り立つ者。あの人は? 道行く人の姿が気になる時ほど、自分の心が定まっていないのだ。わからない。何もかも自分でもわからないのだ。定着しない十月の風の中を、私は歩いていた。
(今だけだ)
きっとすぐに明らかな季節の中に取り込まれるだろう。
今、私の手の中には突然に湧いたクーポンがある。
日付が変わるまでに使い切ってしまわなければ、木の葉同然になってしまう。しかし、いったいどこで。この街のいったいどこで……。
「この街あたりじゃ使えないわ」
郵便局の前で魔女が教えてくれた。
「共通して使えないようにしたんだから」
「えっ? どういうこと?」
「どうにもならないこともあるわ」
電車はなく、隣の街までバスで行くしかないと言う。
「今日のバスはもう行ってしまったわ」
「そんな……」
化かされてしまったか。
あきらめかけたその時、どこからともなくドラムを叩くような音が聞こえてきた。音はだんだん激しさを増しながら近づいてきた。ハードロックだ。金属のようなボーカル、月夜のようなギターの音色に続いて、馬車が現れた。音楽が止み、馬車は私の前に止まった。
「お乗りください」
大きな帽子が馬上から言った。地域の有志が走らせる馬車で、クーポンを手にしていれば誰でも乗れるという。
チョコ、キャンディー、クッキー、ビスケット。たくさんお菓子を買って、みんな投げ与えるように、魔女がアドバイスをくれた。
「使えるのはお菓子だけなんだからね」
「では、さようなら」
元々なかったものと思えば、お菓子でも何でもいい。手に入ると同時に消えて行くようなものでも、いい。
十月の馬車に揺られながら、私はどこかお祭り気分だった。
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