私たちは頭の中だけで駒を動かすことができるし、自分の対局なら棋譜を見なくても難なく再現できるものだ。私たちは死力を尽くしぼろぼろになった後でも、もう一つの対局を怠らない。
「感想戦」確かにそれは、叶わなかった夢や幻の構想、負け惜しみのような言葉をつぶやく場でもある。しかし、その本当の目的は自身の棋力向上のためだ。疲れ切った熱い頭をもう一度酷使するのは、誰よりも強くなりたいという一心から。だが、時には自分たちだけではどうしてもよみがえらない対局というのもあった。
「えー、ここで私はどう指しました?」
「確か、あれ? どうでしたっけ」
そういう時に頼りになるのが記録係という存在だ。
「角を出られました」
「へー、角を」
「あー、確かに」
これが私の指した手か……。
今となってはまるで意味がわからない。
「で銀交換してから端歩を突いたの。ほー」
「それに対して私はじっと金を寄ったの」
「ありがとう。君がいてくれて助かったよ」
「いいえ。仕事ですから」
記録係は今でも正座を崩していなかった。
近い将来、私たちの棋力を凌駕するだろう。
「で私が桂を打った」
「私は銀を立った」
「へー、こんな手あるの?
歩を打ったらどうするの。どう指すんですか」
「たぶん何もしないつもりでしたね」
「えー? あなた何しに来たの」
「いやお恥ずかしい」
「これはひどい」
「乱れがひどいですね」
「振り返りたくないね」
「流石にひどすぎる」
「夕食のワインがまわってきたよ」
「私もおやつのウイスキーが……」
「ああもう駄目だ」
「お酒強くないからなあ……」
「お互いまだまだ弱いね」
「もっと強くなりたいですね」
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