人生の機微を集めたキビ団子。突き上げる寂しさとあびるほどの不備の中を団子を探してしゅんさんは歩き回る。おびただしい数の偽のキビ団子が転がっている。しゅんさんはそれらをちょびちょび拾っては捨てなければならなかった。
歪な形をした偽のキビ団子はすぐに偽のキビ団子と見破ることができたが、正しいキビ団子の手引きにも載っているような偽団子の時などに思わずそれを手に取ってしまい、脳内からドーパミンが出掛かることがあったが、厳しいチェック機関である脳内審判が旗を上げることで、直ちにドーパミンは引き下げられるのだった。
ナビがあれば飛びつくのだけど。探求は老いへの道であるように思えて、おいおいおいおいしゅんさんは泣くのだった。どうしてここへ、どうして私はどうして……。おびただしい問いが追いかけ始めた時、しゅんさんはまた逃亡者になった。子供たちを置いて出て行ったのは、しゅん先生だった。
風レオンから鬼の人格が現れた。二人三脚する人の間にどこからともなく入り込んで、両者の絆が消えてしまうまで居座ろうと試みた。トースターに手を伸ばすと、まだ焼けてもいないパンを引き出して、一面に容赦なくバターを塗りたくった。
密かにシェフの背後に回ると手の込んだ料理の中から凝縮された旨味成分だけを取り出して回った。おびただしい数の偽のキビ団子をばらまいて大いなる困難を誘った。犬に乗り移っては高級なシューズばかりをくわえて逃げ回った。
「もうやめるんだ。きみは本当はいい子なんだ」
「いいえ。これが本当の私よ」
風レオンから鬼の人格が現れた。濃縮4倍のめんつゆを7倍、8倍に薄めて回った。人々はいつもよりも少し味気ないめんを啜った後で、少し寂しげな表情を見せた。
鬼の人格は自販機の陰に潜んだ。商品が購入される直前に神業的な速さで返却レバーを押して回った。セーターをもらったばかりの人に同じ色のセーターを重ねて贈ったり、スリッパをもらったばかりの人に色違いのスリッパを重ねて贈って回った。
人間工学に基づいて作られた製品を片っ端から分解して、鬼工学に基づいた仕様に正して回った。
「やめるんだ。そんなことをして何になるんだ?」
「困った顔が見てみたいだけよ」
「そんなことをして何が楽しいんだ? 悪趣味じゃないか」
「私の中の人格がそうさせるのだから、仕方がないのよ」
「早く戻るんだ。本来の自分を取り戻さなくちゃ」
「だけどね、しゅんさん。これだって本当の私なの」
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